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真司君
「じゃあ渡瀬君こっち来て……あ、そうだ! 撮影するにあたって気分高めるために名前で呼んでもいい?……竜太って。もっと仲良くなりたいし 」
部活を早めに切り上げ、クラスの撮影のため僕は校舎裏に呼ばれていた。
今目の前で僕に話しかけてるのは、この作品の監督をやる演劇部の遊佐君。脚本監督でおまけに僕のバディ役。
「どう?」
「別に……竜太って呼んでくれても構わないよ」
なんだかいきなり呼び捨てなのはちょっと抵抗があったけど、早く仲良くなるためにって言うし、しょうがないよね。
遊佐君とは二年になってから初めて同じクラスになったから、正直あまり話したこともなかった。
「じゃあ僕も名前で呼んでもいいかな?」
そう聞くと、遊佐君は笑顔で頷いた。
「俺は真司 。遊佐真司 ね。改めましてよろしく」
「よろしく。真司君」
前もって台本を渡されていたけど……やっぱり恋愛ドラマなんだよね。
僕とバディを組んでるのが女の子の設定。もちろんここは男子校だし、全員男で役を演じる。
バディ役の真司君が撮影本番に女装して演技をするわけなんだけど……
「とりあえず今日はカメラテストしながら、撮影場所の確認をしよっか……ほら竜太おいで」
突然真司君に手を掴まれ、ずんずんと校舎の中を進んでいく。
手なんかつないで、ちょっと嫌だな。
カメラマン担当の斉藤君が、時折カメラを回しながら僕らの後ろをついて歩く。斉藤君は一年生の時から同じクラスで、僕とは仲がいい。僕は助けを求めるように斉藤君を振り返ると、苦笑いをした彼は小さく首を振った。
「竜太は犯人を追ってさっきの場所からここまで一気に走る事になるんだけど、大丈夫だよね?」
「………… 」
……そうなんだよ。
なんで僕が主役の刑事役に決まったんだろう。
キャスティングはここにいる真司君と、他の演劇部の人達で決めたらしいのだけど、どう考えても僕には不向きだと思う。クラスのみんなからも何も意見もなくすんなり決まったのはいいんだけど……きっと僕の運動神経がどうしようもなく悪いってこと、みんな知らないんだよね。
……困ったな。
「ねぇ、僕走るのも遅いし……アクションだって自信ないよ。ほら、斉藤君ならわかるよね? 僕が走ったりするのも苦手な事……」
僕が斉藤君に同意を求めると、クスッと笑って斉藤君が真司君に説明をしようと口を開いた。
「そうだよね……竜太君は……」
「平気だよ! 走るのそんなに苦手? じゃあちょっと走ってみようか。もう残ってる生徒も少ないし大丈夫だろ」
真司君は斉藤君の話を遮るようにそう言うと、また僕の手を掴んでスタスタと来た道を戻り始める。
いちいち手を繋がなくてもいいのに……
真司君、張り切ってるのかちょっと強引なのか。
とりあえず言われた通りにやってみて、酷いようなら配役変えてもらおう。
うん、それがいい──
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