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配役
「じゃあ、ここからさっきのところまで全速力で走ってみて。俺は後からついていくから……はいっ、スタート!」
真司君に捲し立てられ、ちょっと慌てて僕はスタートした。
殆ど生徒は残ってないから……なんて言ってたけど、基本廊下は走っちゃいけないんだよ。
最初の角に到達する前に既に息が上がり始めた僕は、少しよろけながら壁に手をついて廊下を曲がる。
瞬間、衝撃と共に僕は気がついたらひっくり返っていた。
「……痛ってぇ!……あ、大丈夫ですか?……って渡瀬先輩??」
驚いた顔をして目の前に立っていたのは入江君だった。
入江君が僕を起こそうと手を差し伸べてくれ、僕もその手に助けてもらおうと手を出したら、さっと間に真司君が割って入り僕の体を抱き起こす。
「ちょっと……大丈夫? 怪我ない?」
真司君は心配そうに僕の体をポンポンと叩きながら入江君を睨みつけた。
「あぶねぇじゃねえか、気を付けろ!」
え……?
何言ってんの? 入江君は悪くないでしょ。
「ちょっと! 真司君違うよね? 悪いのは僕らの方だよ……ごめんね入江君。怪我なかった?」
心配して僕がそう言うと、入江君はプッと吹き出す。
「すっ飛んでるの渡瀬先輩でしょ? 俺は何ともないから気にしないでください……てか部活後に何してるんですか? 今日は橘先輩は一緒じゃないんだ」
「……うん。周さんは今日はアルバイトかな。今ね、僕らクラスの……」
「はいストッ〜プ、竜太行くよ!」
真司君に口を塞がれ、グイグイと引っ張られる。
しょうがないから入江君に手を振り、真司君の後をついていった。
「もう、何? 今の態度……廊下を走ってたのは僕らだし、入江君は悪くないのに……真司君、感じ悪いよ!」
さっきのは流石に驚いたのもあって、僕は真司君に文句を言った。
「はいはい、ごめんね。でも撮影の事は言っちゃダメだよ。で、なに? あの子は知り合い?」
適当な返事の真司君にまた少しイラっとしてしまった。
「……美術部の後輩。撮影の事は言っちゃダメなの? 僕、周さんとか修斗さんに話しちゃったけど……」
僕が言うと、真司君はため息を吐いた。
「ほんっと、仲良いんだね、あの先輩達と。もうしょうがないけどこれからは進み具合とか話しちゃダメだよ。面白くなくなっちゃう」
「うん……わかったよ」
なんか嫌だな……って思いながらも、僕は真司君の言う事に頷いた。
「でもさ、さっきの見てわかったでしょ? 僕は長距離を全速力で走るスタミナもないし、やっぱり鈍臭いんだよ。配役変えたほうがいいと思うよ」
自分で言っていて情けないけど、僕に主役は務まりそうにないから……
だけど、真司君は僕の不安をよそに笑顔を浮かべたまま「大丈夫」と言うばかり。
そしてすぐに、少し台本を変えるからと言って、一人さっさと帰ってしまった。
僕は半分諦めて、カメラのチェックをしている斉藤君の方へ向かう。
「ねえ、僕はさ……主役をやるタイプじゃないと思うんだよね。なんで真司君は僕にこだわるんだろう。配役変えてくれそうにないや」
斉藤君に小声でそう言うと、クスッと笑われてしまった。
「竜太君、カッコいいから……それにそんな謙遜しちゃって。竜太君はこの学校じゃ結構な有名人でしょ? お客さん絶対集まるからって遊佐君張り切ってんだよ。さっきだって僕の話なんか聞く耳もたなそうだったし。諦めたら?」
は?
僕は有名人なんかじゃないし、かっこ良くもない。
むしろ真司君や斉藤君の方がカッコいいし……
「………… 」
後片付けをしている斉藤君を見ながら僕は悶々と考える。
「あ! ならさ、僕じゃなくて志音が適任でしょ! 有名人だし誰もが認めるくらいカッコいい!」
そうだよ。
なんで気がつかなかったんだ!
あんなにかっこ良くて目立ってる志音を差し置いて僕なんかが主役をやっちゃダメでしょ。
どうしても僕はこの役をやる気が起きなかったから、誰かに代わって欲しかったんだ。
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