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撮影準備

グッドアイデアだと思って言ったのに…… 「志音君はダメだよ。遊佐君に僕も最初に提案したんだ。そしたらどうせ仕事で文化祭なんて来ねえからって即却下。なんだか初めから竜太君に決めてたっぽかったよ」 ……嘘だ。志音は文化祭には来るって言ってたのに。 ちゃんと確かめもしないで。 「でも上映会当日にいなくたっていいじゃん」 「いや、そもそも志音君は忙しいわけだし、連日の放課後撮影に付き合わせられないでしょ」 「………… 」 それもそうだ。 「そんなに嫌なの? 自分が思ってるほど竜太君は鈍臭くないよ? 大丈夫だよ……もっと自信持ちなって」 斉藤君が慰めてくれるけど、そんなの慰めになんかならない。 「嫌だよ……だって……だってさ、恋愛ドラマでしょ? ……好きでもない人と、たとえ演技とはいえ……僕やりたくないよ」 「………… 」 ポカンと斉藤君が僕の事を見て、それからにんまりと笑った。 「竜太君って可愛い事言うんだね。もしかして好きな人でもいるの? ……って、だいたい見当はついてるけどさ」 僕は周さんと付き合っている事は公にはしてないけど、でも学校じゃ普通にいつも通り周さんと一緒にいる。 結構くっついてるし、屋上では周さんに甘えて膝に乗ったりなんかもしてるから、バレバレだって言われればそうかもしれない…… 「うん……大切に思ってる人はいるよ。だからやりたくないっていうのが一番の理由」 「ん〜、でもお芝居だからね、割り切って頑張るしかないんじゃない? 遊佐君は今更配役変える気ないんだし……ま、竜太君頑張って!」 結局どうする事も出来ず、ただ斉藤君にちょっと恥ずかしい本音を知られただけだった。 それから二日間、僕は放課後部活の後に真司君と打ち合わせで教室に残った。 劇と言ってもキャストは僕とバディでヒロイン役の真司君、犯人役と同僚の刑事役が二人の合計五人だけ。カメラマンは斉藤君、後は衣装と編集、ポスター係、チケット係や当日の誘導係をクラスのみんなで分担する。 だからこうやって集まって打ち合わせしたりするのは主に出演する僕らと衣装係だけなんだけど、今日はなぜか僕と真司君以外誰も来なかった。 「ねぇ、今日はなに? みんなは来ないの?」 不思議に思い僕が聞くと、衣装もほぼ決まってるし、後は自分たちの演技の確認くらいでいいだろ?と言われてしまった。 そっか……いよいよ明日から本格的に撮影が始まるんだ。 本当は部活の方にもっと時間を割きたいんたけど、撮影は上手くやればすぐに終わるんだからと言って、それもやっぱり聞いてもらえなかった。 「じゃあさ、今日は外に行こっか? 台本持ってきてる? 俺ん家で打ち合わせしよっ」 そう言って帰り支度を始めた真司君に遅れないように、僕も急いで支度をした。 「あれ? 真司君の家って、僕の家と同じ方向なんだね。こっちって事は徒歩通学……だよね?」 電車やバス通学の人たちは校門を出て右に行くのに、真司君は僕と同じに左に出た。 「そうだよ。知らなかった? よく登校時見かけるけど気づいてないんだね」 ……そうだったんだ。 「なんだよ、気づいてるなら声かけてくれればいいのに」 「いや、だっていつも他のクラスの奴と一緒に楽しそうにしてるから……声かけづらくてさ」 他のクラスの? あ、康介のことかな? それにしても、強引そうな性格の真司君だけどこういうところは思っていたのとちょっと違う。 真司君なら知らない人がいたってグイグイ来そうなのに…… 変なの。

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