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散髪

部屋にビニールシートを広げて、椅子と鏡を用意する。 いつの間にか康介も部屋に来ていて、興味津々で陽介さんの様子を見ていた。 「兄貴さ、俺の髪切ってくんねえのになんで竜ならオッケーなんだよ。なんかムカつく……」 「だってお前、文句言いそうだもん嫌だよ。どうせちんちくりんなんだから髪くらいてめえで切れ。そのうち気が向いたら切ってやるよ」 「………… 」 僕は陽介さんに言われるがまま、椅子に座りケープをつける。 「本当にいいの? 俺上手くないよ。竜太君の思うようにならなかったらゴメンね」 「いえ、大丈夫です。だっていつも圭さんの髪、カッコ良く切ってるじゃないですか。僕も圭さんくらい短くしてください」 「……!? 」 僕の言葉に、わかりやすすぎる康介の動揺。 「竜……圭さんの事はっ! 」 慌てて小声でそう言って康介が僕を睨む。でもムッとした陽介さんに康介はゲンコツを食らった。 「痛ってえな! 兄貴なにすんだよ!」 「ほんと、お前のそれ! やめてくれよ。腫れもの触るみたいによ……圭ちゃんのこと禁句みたいな態度やめれ。ムカつく!」 陽介さんは僕の髪を触りながら「アホな康介で悪いな……」と苦笑い。 「でも竜太君、圭ちゃんくらいって結構短いよ。いいの?」 「はい、なんか文化祭のドラマ撮影で、僕男らしくした方がいいみたいなんで。短い方が男っぽくなるかなって思って。それに髪ならまた伸びます」 陽介さんは僕の言葉に軽く笑って、鋏でカットし始めた。 「康介……お前いると気が散るから向こう行っとけ」 途中お喋りに夢中になり始めた康介は、陽介さんに追い出されてしまった。 「……陽介さん、圭さんとは連絡取ってますか?」 「ふふっ、聞かれると思った」 鏡越しに目が合うと、少し困ったような顔をした。 だってどうしても気になってしまったから。 「連絡は取ってないよ。卒業して、圭ちゃんを空港で見送ってから一度も話してない……」 あ……あの日、見送りには行ったんだ。 「見送りって言っても会ってないけどな。圭ちゃんどうしてっかな……」 僕の髪を軽快にカットしながら陽介さんはそう呟く。 「あ、そういえば陽介さんよく合コンとか行ってるって……」 「あぁ、それな。暇つぶしと人数合わせ……え? なんか俺、心配されてる? 大丈夫よ、心配しないで」 圭さんがいないから変わりの人を探してるなんて、陽介さんに限ってそんな事ないよね。 「はい……だって合コンって……えっと、その……やっぱり……寂しいですよね」 「………… 」 陽介さんの手が止まる。 ……あ! 「ご、ごめんなさい!……僕なに言っちゃってんだろ。ごめんなさい」 僕は言い過ぎてしまったと慌てていると、陽介さんは優しく頭を撫でてくれた。 「いや、いいよ気にしないで……うん、寂しいな。毎日毎日、なんで圭ちゃんは近くにいないんだろうって思うよ」 あぁ…… 僕はなんでこんなこと言っちゃったんだろう。そんなの当たり前じゃないか。寂しいに決まってる。 陽介さんの表情が、なんだか苦しそうで胸が痛んだ──

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