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周さんの話
文化祭の準備が始まってから、周さんとはすれ違いが多かった。
でも今日は昼休みに一緒に過ごす。もちろん康介と修斗さんも一緒だ。
「ドラマの撮影は順調? 昨日竜太君に手を引かれてた綺麗な女の人は誰?」
わざと意地悪く言う修斗さんがクスクスと笑う。
「………… 」
周さんの機嫌が悪くなると思ったけど、あんまり関心がないのか、周さんは表情を変えずに購買で買った焼きそばパンを頬張っていた。
「修斗さん見てたんですか? あれはクラスメートで相手役の真司君です」
そう言うと、修斗さん自身が見ていたのではなく、現場を見ていた他の人たちが噂をしていて、修斗さんのクラスで結構話題になっていたんだと教えてくれた。
……て事は、修斗さんと同じクラスの周さんの耳にも入ってるよね? それなのになんでこんなに無関心なんだろう。どうしちゃったのかな。
なんだか周さんが不機嫌になっちゃうのは嫌だけど、いつもみたいに怒ってくれないのもなんだかそれはそれで寂しく思ってしまう。
「女装していた子、綺麗だったもんな。竜もスーツなんか着ちゃってイケメンだし? お似合いのカップルって感じだったぞ! 上映会楽しみだな」
修斗さんの隣で康介もそう言って僕を揶揄った。
「もう! やめてよ康介まで…… カッコ良くないし全然お似合いじゃないからね!」
周さんの前でこういう話もなんか嫌で、おまけに今日はキスシーンの撮影があるからそっちの方が気になってしまって、正直僕はそれどころじゃなかった。
少し後ろめたさも感じながら、僕は必死に話題をそらした。
周さんはしばらく黙ってパンを食べていたけど、食べ終わると「ちょっと報告があるから聞いてくれ」と言い、静かに話し始めた。
「あのさ、実はお袋……再婚する事になった」
え?
雅さんが再婚?
「マジかー! よかったな! 雅さん美人だもんな、再婚、めでたいな!」
修斗さんがはにかんで周さんの肩をポンポンと叩いている。
雅さん……再婚か。
結婚式とかやるのかな? 想像したら僕まで幸せな気持ちになってきちゃう。
「周さん、おめでとうございます!」
盛り上がる僕らとは対照的に、周さんは何となく複雑な表情に見えた。
「え? じゃあさ、新しい親父さんと一緒に住むの? あのアパートに?」
修斗さんが周さんにそう聞くと、難しい顔をして首を傾げる。
「ん……わかんね。でもあの家には住まねえよ。お袋と謙誠……あ、再婚相手、謙誠っていうんだけどよ、なんかお袋と小学校の頃の同級生らしいんだよ。お袋達の地元にある謙誠のマンションに住むと思う。そうだな、ここから車でニ時間くらいのとこ……」
……え?
周さんの言っている事を理解するのにちょっと時間がかかってしまった。
それって周さんも一緒にそんな遠くに引っ越しちゃうってこと?
え? え? まって……そんなの僕聞いてない。
嫌だ。
「なにそれ? ちょっと周、竜太君泣きそうな顔になっちゃってるよ。ちゃんと説明しろよ」
泣いてはいないけど……
何て言ったらいいのか、言葉が出ない。
ただただ僕は横に座る周さんの横顔を見つめる事しかできなかった。
「あ……竜太ごめん。俺も一緒に行くとはまだ言ってないからさ。今すぐってことじゃねえから。お前は心配すんな……」
黙ってしまった僕の顔を覗き込むようにして、優しく笑ってくれてる周さん。でもそんな周さんの顔が辛そうにも見えて、何だか余計に苦しくなった。
もしかしたら周さんが遠くへ行っちゃう……
今度は本当に涙が溢れそうになったその時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
僕は周さんに涙を見せないように、そそくさと教室に戻った。
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