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文化祭一日目

文化祭一日目── 僕らキャスト撮影組は、当日の準備などは免除なのでいつも通りゆっくりと登校した。 学校に到着すると、多くの生徒が忙しそうに準備をしている。 美術部が作成した看板も立派に門に取り付けられていた。 「おっはよ! いよいよだな上映会! 編集もバッチリ、 凄くいい出来だぜ。さすが俺!」 背後からご機嫌な真司君が僕の肩に飛びついてくる。 「おっ、おはよう。編集作業お疲れ様……」 真司君に肩を組まれ、ちょっと歩きにくい。僕は腕から逃れようと身を捩った。 そうなんだよ……上映会。 楽しみだった文化祭だけど、あのキスシーンの事が頭から離れなかった。 本当にキスしてしまったこと、勿論周さんには話してないんだけど、これは正直に言った方がいいのかな…… でも背後から撮影されてるから本当にキスしてるわからない。演技だと言えばそれで済む話だった。 ……僕が後ろめたいだけなんだ。 「おやおや? どうした竜太君。緊張してるのかな? 心配ご無用! 竜太は男の俺が惚れ惚れするほどいい男だぞ!」 「………… 」 真司君、鬱陶しい。元はと言えば真司君が僕を主役に抜擢したせいなんだ。 「もう、ふざけないでよ! 真司君歩きにくいからちょっと離れて」 何かと纏わりついてくる真司君と一緒に、重い足を引きずり教室に入った。 上映会をする視聴覚室の飾り付けももう準備万端だと他のクラスメイトたちが言っている。まだ少し時間もあるから、保健室から戻ってきた志音と一緒に隣のクラスの康介の所へ遊びに行った。 「うわぁ、凄いね。お化けの絵がリアルで怖い……」 康介のクラスはお化け屋敷。 入り口の見た目から、去年の周さんのクラスのお化け屋敷よりも格段に怖そうだった。 「僕、絶対入りたくない……」 そう呟くと、志音に顔を覗き込まれる。 「嘘? たかだか文化祭のお化け屋敷だよ? この程度のクオリティで怖いとか言っちゃうの?」 馬鹿にしたように志音がそう言うと同時に、後ろから康介が顔を出した。 「志音! お前馬鹿にすんなよな。俺らのクラスのお化け屋敷は凄えんだぞ。おまけに竜太の怖がりも半端ねえんだ! 後で絶対遊びに来いよな」 「うん、竜太君の怖がりは知ってる。去年本当に酷かったもんね。俺の手ギュッと握って離さないの」 「………… 」 暗いの怖いんだからしょうがないじゃん。 康介はケラケラと笑い、まだ準備の途中だからと言って教室に入っていってしまった。 「ちょっと! 僕はお化け屋敷は入らないからね? 嫌だよ!」 「はいはい」と適当な返事をする志音に、入らないからね! と何度も念を押しながら歩いていると、前の方から修斗さんが歩いてきた。 「あ! 竜太君〜、志音君〜」 元気よく手を振る修斗さん。 その近くに周さんの姿を探してみるけど、修斗さん一人だった。 「俺らのライブ、午後からだからさ、ニ人とも絶対観に来てよね……あ、俺ら周とニ人ね、クラスの手伝いしなくてもいいんだ。だから竜太君のクラスの上映会バッチリ見に行けるからね。楽しみにしてるから」 康介と時間を合わせて校内を回るんだと言って楽しそうに話す修斗さん。 ああ……そうだ。 「修斗さん……あの、今ちょっと時間いいですか? 聞いてもらいたいことがあって」 僕はキスシーンのこと、修斗さんに話してみようと思ってそう声をかけた。 志音は僕の顔を見て何かを感じたのか「教室に戻ってるね」と言って席を外してくれた。 「なになに? どうしたの? 深刻な顔しちゃって……もしかして雅さんの再婚の話? 周が引っ越しちゃうかもって心配してるの?」 それもあるけど…… 僕は俯いて小さく首を振る。 そうだよ、周さんが遠くへ行っちゃうかもしれない…… 「それもあるんですけど、僕…… 」 「わかった、屋上にでも行こうか? 時間はあるんだよね? 話聞くよ」 優しくそう言ってくれる修斗さんに促され、僕は頷き屋上に向かった。

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