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好きなんだから当たり前
「いつになく深刻な顔だね? 周の事だけじゃないのかな?」
いつものお昼を食べる場所に並んで座り、修斗さんにそう聞かれる。
「………… 」
自分の意思じゃなかったにしろ、やっぱりこんな事を打ち明けるのは勇気がいる。特に僕は何度も襲われたりしてるから気をつけろって言われているのに……
僕がぼんやりしてるからこうなるんだ。
また周さんを悲しませてしまう。
「竜太君?」
すぐ目の前に修斗さんの顔。
心配そうに僕の顔を覗き込んでる。
「あ……ごめんなさい」
「へ? ごめんなさいって? 大丈夫? 何かあったの?」
どうしよう。
僕が黙ってさえいればきっとわからない。修斗さんにだって話す必要はないかもしれない。
「……周にも言いにくい事なんだろ? 大丈夫だよ、誰にも言わない。俺に話す事で竜太君の不安が薄れるんなら力になるよ」
「………… 」
話を聞いてもらいたくて修斗さんに時間取ってもらったんだ。
今更「やっぱりいい」だなんて言えなかった。
「あの……もし、もしですよ? 例えば康介が修斗さんじゃない人とキ……キスしてたら修斗さん、どう思いますか?」
どうしても僕は自分の事だと言いにくくて「例えば」の話でそう聞いてしまった。
「……は?」
「修斗さん……?」
黙ってしまった修斗さんの方を見ると、みるみるうちに怖い顔。
「何それ! どこで見た? 康介が誰とキスしてたって?!」
肩を掴まれ怒鳴られる。
いつも余裕な修斗さんなのに、あまりにも感情的でびっくりして思わず言葉に詰まってしまった。
「……あ! 違います! ごめんなさい! 例えばの話です! ……僕なんです! キス、僕……なんです。ごめんなさい……」
誤解してしまった修斗さんに僕は自分の事だと白状した。
そうだよ、こんなこと聞かされて怒るの当たり前だよね。
「僕、キスシーンの撮影で……本当にキス……されてしまって。それが今日上映されてしまうから……周さんに観てもらいたくないんです。ごめんなさい」
ポカンとして修斗さんは僕を見ている。僕は後ろめたくて修斗さんの顔も見られなかった。
「怒ってごめんな……そうだったのか。詳しく聞かせて?」
いつもの雰囲気に戻った修斗さんに、僕は撮影の事を細かく説明した。
周さんが遠くへ行ってしまうかもしれない不安から、思わずアドリブの台詞を吐いてしまった事、そんな僕につい唇を重ねてしまったという真司君の話も……
「それってさ、きっと映像見たところで本当にキスしてるとはわからないよね? 黙っていてもいいと思うよ。でも竜太君がいつも通りいられるんなら、の話。今みたいにさ、様子がおかしいって誰の目から見ても分かるようなら間違いなく周は心配するよ? それでも黙っていられる? 竜太君は周が理由も言わず様子が変だとどう思うかな? 心配するよね? それと同じだと思うな……でもさ、周は嫌だとは思うだろうけど、竜太君には怒らないと思うよ?」
……わかってる。言うか言わないかは僕次第、だよね。
「でもさぁ、その真司君の気持ちもわからないでもないな。竜太君さ、最近すごく男らしくなったよね? 気付いてる? その髪型といい……あぁ、外見だけじゃなくて内面もね、逞しくなったというか自信に満ちてる……というか。あ! あと背も伸びたでしょ?」
楽しそうに僕を見ながら修斗さんはそう言って笑うけど、僕は意味がわからず首を傾げた。
「全然男らしくなんてないです。すぐ悩むし、すぐ泣くし……今だってウジウジ悩んでる。いつもと変わらず僕は情けないまんまです……」
そう僕が言うと修斗さんに背中をパシンと叩かれた。
「それはしょうがないでしょう、好きな奴の事で悩んだりウジウジするんのは当たり前。俺だって見ただろ? さっきの。竜太君が「例えば」って言った事もちゃんと聞かないですぐ感情的になっちまった。そういうもんだよ。竜太君はもっと自信持っていいと思うよ。とにかく、周の事は大丈夫だよ……」
僕を励ますように修斗さんは頭を優しく撫でてくれる。
話を聞いてもらえてホッとしていると、いつの間にか目の前で康介が仁王立ちしていて驚いた。
「修斗さん! 何してんすか! 俺、教室で待ってたのに! 竜はどうしたの? 早く教室行けば? 準備大丈夫なの?」
明らかに不機嫌丸出しで僕を睨む。
修斗さんは僕の顔を見てクスクスと笑った。
「ほらね、わかりやすいったら……好きな奴の事になるとみんなこうなんだよ」
クスクス笑いっぱなしで康介の肩を組む修斗さん。
「はぁ? なに? 俺は別にいつも通りですけど? 好きな奴の事になると……ってなんすか? 別に焼きもちなんて妬いてないですから! ちょっと聞いてます? 俺は妬いてないですからね!」
「はいはい。竜太君の用は済んだから、ほらお待たせ。行くよ康介」
楽しそうに肩を組んで、そのまま修斗さんと康介は行ってしまった。
修斗さんも周さんも、ライブがあるからクラスの手伝いはしないって言ってたよね。
僕はポケットから携帯を取り出し、周さんにメッセージを入れた。
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