146 / 377

そばにいてくれますよね?

僕のメッセージの返事を待たずに、周さんは直接屋上に来てくれた。 「周さん……僕もクラスの手伝いしなくていいから、ライブの時間までよかったら一緒にいてください」 僕の隣にストンと腰掛ける周さんにそう言うと「もちろんそのつもりだ」と僕の腰に手を回す。 「周さん、僕のクラスの劇……観たいですか?」 恐る恐る聞いてみると、少しの間があってから「別に……」と気のない返事が返ってきた。少しホッとするも、なんとなく周さんが元気がなさそうに見えて落ち着かない。 やっぱり僕のせいかな……? 「……周さん? なんか元気ない。どうしたんですか?」 顔を覗き込んで僕は周さんに聞いてみる。 チラッと僕の顔を見ると、フッと目を逸らされてしまった。 「……別になんでもねえよ。新曲がなかなかしっくりこなくて直前まで歌詞考えてた。俺こういうの苦手だからよ。それより竜太もなんか変じゃね? 大丈夫か? 何かあったか?」 「………… 」 さっきの修斗さんの言葉が頭の中に蘇る。 「いえ、何でもないです。雅さんの再婚で周さんが遠くへ行っちゃうかもって、そう思ったら寂しくなっちゃっただけです……」 これは本当だから。 キスシーンの事は言わないことにした。上映会も周さんは観ないって言ってるし。 大丈夫── すると、周さんはふふっと笑い僕の顔を見た。その顔はもういつもの周さんだった。 「竜太は俺がいないと寂しい? 悲しい?」 少し悪戯っぽく見えるその笑顔に、僕は釣られて笑顔になる。 「当たり前です! ……ずっと側にいてくれますよね?」 周さんは遠くになんか行かないよね? 「ん〜。俺は行くつもりねえんだけど……まだちゃんと謙誠と話してねえんだよな。今度ちゃんと話してこっちに残らせてもらう。不安にさせちゃったな。ごめんな竜太」 そう言って周りをキョロキョロと見渡してから、軽くキスをしてくれた。 よかった……周さんからそう言ってもらえるとやっぱり安心出来るんだ。 気持ちよく周さんと校舎に戻ろうとしたその時、聞きたくない煩い声が屋上に響いた。 「竜太! こんなとこにいた! ……ったく、探したんだぞ! 初回は舞台挨拶すんだからよ、早く行くぞ!」 僕らめがけて走ってくる真司君。 目の前に来るなり僕の手を取りグイッと引っ張った。 「ちょっと! 引っ張らないでよ。何? 舞台挨拶って……僕聞いてないし行かない」 隣の周さんのことを無視してる真司君にイラっとする。 「舞台挨拶っつったって大袈裟なもんじゃねえよ。キャストの紹介をちょっとやるだけだって……ん? あ! 橘先輩! ちぃーす!」 やっと周さんに気がついたのか、急に僕の手を離してぺこりとお辞儀をする真司君。なにその適当な挨拶……信じられない。 「もう文化祭始まってますよ。あ! 橘先輩も俺らのクラス来ます? 是非観てってくださいよ! 竜太めっちゃかっこいいんすよ! もう最高なんだから!」 は? ちょっと! 余計なこと言わないでよ! ほら見ろ……周さん凄い怖い顔になっちゃった。 「いや、俺はいいや……」 「えー? 来てくださいよ! 竜太もいい男だけど俺もなかなかの美人ですよ」 「……いや、行ったら多分お前殴りたくなるからやめとく」 周さんは僕の頭にポンと手を置き「後でな……」と言って自分のクラスへ行ってしまった。 「???」 真司君はキョトンとして頭にハテナを浮かべてる。 「……舞台挨拶、行くんでしょ?」 僕が声をかけたらハッと我にかえり、僕の手をとり走り出した。 「急ぐぞ! 時間がねえ」 「………… 」 なんなんだよ、いちいち手を繋がなくたっていいのに。 舞台挨拶が終わったらすぐに周さんのクラスに向かおう。

ともだちにシェアしよう!