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お化け屋敷と羞恥心
康介がその人だかりに歩いて行くと、案の定そこにいたのは直樹君だったらしく、その場で立ち話を始めた。
僕らもそこへ行ってみると凄く可愛らしい姿の入江君とその他のメイドさん達が各々お店のプラカードを持って宣伝していた。
「直樹君久しぶり。来てたんだね」
僕が声をかけると鼻を膨らませて「当たり前です!」と直樹君は答える。
「だって見てこの格好! 祐飛ってば直前までこのこと言わねえんだもん。スカート短いし、化粧までされてやたら可愛いし、声かけられまくってるし触られてるし……もう俺が付いてなかったらどうなることやら……」
興奮気味で直樹君が話すのを、隣で呆れ顔で入江君が聞いている。
……それにしても入江君。
メイド姿が気に入らないのかムスッとした表情のまま、やる気がなさそうにプラカードを肩に背負ってる。
「祐飛君、そんな仏頂面してても可愛さ倍増だよ。逆効果だと思うんだけど……本当に可愛いね」
修斗さんも入江君の顔を覗き込んでにこにこしている。
「ちょっと! 修斗さんも祐飛の事、揶揄わないでください。こんなとこ歩かせたくないのに、本当もう! さっさと教室戻るよ、ほらみんな行くよ!」
なぜか他校の直樹君が指揮をとり、メイド軍団を引き連れ教室へと戻っていく。
異様な光景……
てか、直樹君は入江君のことしか頭にないよね。
「なんか可笑しいね。直樹君もう必死。後で一年のメイド喫茶行ってみようよ」
修斗さんが康介にそう言ってるのを聞きながら、僕は周さんとこの後どうしようか相談した。
陽介さんと靖史さんは友達も来てるから、ライブの時間までうろうろしてると言ってるし、康介と修斗さんはいつのまにかもう何処かへ行ってしまってる。
「僕らはどうします?」
「竜太はどうせまた甘いもんでも食べたいんだろ?」
周さんにそう言われ、目の前で甘い匂いをさせているクレープ屋さんに入り、またそれを椅子に座って頬張った。
去年は一緒にいられる時間が少なかったけど、今年はいっぱい周さんと過ごせるからなんだか嬉しい。横に座る周さんに、僕はひと口お裾分けをした。
しばらくそこで行き交う人たちを眺めながら座っていると、何人かの人に声をかけられる。
「ファンなんです」という周さんのファンの女の子達。「カッコいいから写真撮らせて」と言う他校の男子達。「ライブ楽しみにしてるから」と各々周さんに声をかけていく中、不思議と僕にも声がかかった。
「随分と雰囲気変わりましたね。やっぱりカッコいいですね。写真一緒に撮ってもらえますか?」
柔かな女の子に隣に座られ、ポカンとしてるうちに一枚写真を撮られてしまった。
なんで僕……? なんて思っていたら、去年の文化祭で僕に似顔絵を描いてもらったと教えてくれた。一応お礼を言うと、その子は嬉しそうにはにかむ。
僕に笑いながら手を振り去っていくその子に、手を振り返しながら見送ると周さんが少しだけムッとしながら僕の腰に手をまわした。
「食べ終わっただろ? もう行こうぜ……」
スタスタと行ってしまう周さんに僕は慌ててついて行く。
途中で上映会を観たって言う人に何度か呼び止められ、写真を撮られたり握手されたり……それでも何とか周さんに追い付いて到着した先は、康介のクラスのお化け屋敷だった。
「え? 嫌ですよ! 僕は入りませんよここ!」
怖いじゃん!
周さんは僕が暗いところ苦手なの知ってるくせに……
「なんだよ、俺と一緒じゃ嫌なのか?」
怖い顔してる……
周さんが嫌なわけじゃないし、暗いのが怖いんだし! そんなのわかってるでしょ。
「……嫌です。僕がこういうの苦手なの知ってるくせに」
廊下で僕が渋っていると、出口から勢いよく修斗さんが飛び出してきた。
「修斗さん? え? 大丈夫ですか?」
見ると修斗さん、汗かいて息切らして辛そうな顔をしている。
「……! 何でもないよ! 大丈夫だし! じゃ、またね!」
慌てた感じで、修斗さんは保健室の方へ走って行ってしまった。
「ほら……周さん、修斗さんも怖そうに出てきたでしょ? 僕は怖いの苦手なんです。やめましょうよ」
「………… 」
僕が引き返そうとすると、グッと腕を掴まれてしまい結局ニ人でお化け屋敷に入ってしまった。
「うゔぅぅ……やっぱりやだ。真っ暗だよ。周さん、手……離さないでくださいよ……ひっ! ……なんか触った……やだっ……見えない……前、見えない……周さん? いますよね?……やだやだ……暗い……… 」
僕が周さんの手をギュッと握りしめて必死に歩いていると、周さんはフワフワとわざと手を緩めて離そうとする。
「や……待って……離さないで! ……ん、前見えない……周さん? わっ!」
急に振り返った周さんにギュッと抱きしめられてしまった。
……てか周さんだよね? それさえよくわからないくらい、この場所は真っ暗。でもさ、頬や首に軽くリップ音立てながらキスしてくるのはダメでしょ! 暗いからって何してるの?
「ちょっ……待って……ダメ…… 」
去年の周さんのクラスのお化け屋敷を思い出してしまった。
周さんに暗幕の裏に連れ込まれて、誰からも見えないからっていやらしい事されちゃったんだっけ……
でも! ここは違うし!
隠れて脅かそうとしてる人からは丸見えでしょ?
「周さんっ……ほら! 行きますよ……手、繋いでください……あっ、もうっ! 」
僕は怖さよりも恥ずかしさの方が勝ってしまって、周さんの手を引っ張りお化け屋敷から颯爽と脱出した。
廊下に出ると周さんは不貞腐れた顔をしている。
怒りたいのはこっちの方だ……
「周さん……ダメですよ、こういうのは」
でもさっきあんな風にされて、僕だって周さんとキスしたくなっちゃったじゃん。
僕は周さんの制服の裾を引っ張り、人気のない屋上へ続く階段の踊り場まで黙って歩く。そして周りを確認してから、少しだけ屈んでくれた周さんの首に手を回して優しく軽いキスをした。
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