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やりすぎ

中に入ると本当に真っ暗で、流石の修斗さんも声を上げた。 「本当だすごいね! 俺らが去年やったお化け屋敷に匹敵するくらいの出来だね!」 キュッと握る手に力を込める修斗さんに、ちょっと驚かせてやろうと俺はそのまま手を引っ張りどんどん進む。 もう少し行くと、脅かし役のいないスポットがある…… 俺は準備にかかわっていたし、順路もきっちり把握していた。 「ちょっと……康介、手痛い……前見えないからあんま急ぐなって!」 修斗さんを無視して俺はその目的の場所までくると、逃げられないように思いっきり抱きしめた。 「あ? なに? ……ちょっと……康介?……どうした?」 はじめは驚いて大きな声だったけど、俺が抱きついて体を弄り始めたもんだから修斗さんは慌てて声を潜めた。 「おい……やめろって……康介」 「修斗さん黙って……」 俺は慌てる修斗さんの顎を強引に掴み、唇を奪った。 「んっ?……んっ…… 」 修斗さんは俺から逃れようと体を捩るけど、離してやらない。 ここには脅かし役もいないから、誰からも見られてない。でも修斗さんはそんな事知らないから、きっと見られてると思って慌ててるんだ。 ……俺の事、揶揄った仕返しだ。 俺はわざと荒々しく舌を絡める。 ちょっと揶揄ってやろうと思ってやった事だけど、俺にしがみついてる修斗さんがだんだん可愛くなってきて、もっと虐めたくなってしまった。 「や……やめ……あ……んっ」 修斗さんは耳を舐めると決まって力が抜けるから。 思った通りの反応をして俺にしがみつき息が荒くなってくる修斗さんが可愛くてしょうがなかった。 「あ……やっ、あ…… 待てってば…… 」 力なく俺の胸を押して逃れようとする修斗さんをまた抱き寄せて強引に唇を重ね、ズボンの中に手を突っ込んだ。 「……! バカっ! ……こら……あっ」 「ふふ……勃ってる。修斗さん興奮しちゃった?……先っぽ濡れてるよ……」 少しだけ硬くなってるそこを手のひらで弄びながら俺が耳元でそう囁くと、いきなり強烈な頭突きをかまされ、俺は後ろにひっくり返った。 「……ざけんなっ! 」 修斗さんはそう怒鳴って、一人で出て行ってしまった。 ……あ、鼻血。 俺は暗闇の中、鼻の奥から生暖かいものが垂れてくるのを感じてポケットからハンカチを出した。 のろのろと腰を上げ、その場に立ち尽くす。 あれ? 修斗さん……行っちゃった? 俺がこの場から全然動かないからか、前方の脅かし役のクラスメイトが暗幕から出てきて俺に声をかける。 「あれ? 康介だったの? 何してんだよ……次の客入れるぞ。早く出ろよ……ん? どうした? 具合悪いのか?」 具合が悪いわけじゃない。 「いや……大丈夫。今出るから……」 よろよろと出口に向かうと、心配したそいつが付き添ってくれる。そして廊下に出た途端、大声をあげられた。 「康介! 血! 血! どうしたん?? 鼻血か?」 ……騒ぐなよ。大丈夫だから。 「何で顔面血まみれなんだよ! おまえ保健室行ってこい! 一緒行くか?」 「……いい。一人で行ける」 とぼとぼと廊下を歩く。 すれ違う何人かに振り返られたけどそんなの無視…… ……俺、やり過ぎちゃった。 暗くて修斗さんの表情はよく見えなかったけど、声が凄く怒ってた。 だってさ、修斗さんだっていつも俺の事揶揄うじゃんか。 たまには俺もやり返したいなって思っちゃったから…… 「………… 」 でも俺に対してあんなに怒った口調、初めてかもしれない。 頭突きまでされた。凄え痛かった。 ……どうしよう。 それに修斗さん、これからライブなのに。 俺とギリギリまで一緒にいたいからって服まで着替えてくれてたのに。 あ……ズボン汚しちゃってないかな。 あぁ、俺何やってんだよ。 後先考えないで、修斗さん怒るの当たり前だ。 ……嫌われちゃったかな? 修斗さんごめん。 気がついたら保健室の前。 沈む気持ちのままドアを開けるといつもの白衣姿の高坂先生が振り返った。 「え? どうしたの? 康介くん鼻血? ……またぁ、エロい事考えて鼻血出ちゃったの? 若いねぇ」 楽しそうに冗談を言い、笑いながら俺の汚れた顔を拭いてくれる。 「………… 」 「……どうした? 喧嘩か? 誰にやられた?」 黙ってる俺に先生は今度は真面目な顔をして聞いてきた。 喧嘩……なんかじゃないし。 俺は俯き小さく首を振った。 俺が修斗さんを怒らせただけ。 俺が調子に乗ってやり過ぎて、嫌われた…… 修斗さんに嫌われた。 それだけ。 「ふぅ……ゔっ……グスッ……うぅ……んっ…」 取り返しのつかない事をしてしまったとだんだん怖くなり、後悔で涙が出てくる。 なに俺泣いてんだよ、みっともねえな。 でも修斗さんともこれでおしまい……って考えた途端、怖くて悲しくてどうしようもなくなってしまった。 「え……? ちょっと? 康介くん? 大丈夫? どうしたの??」 一度溢れた涙は止まらない。 次から次へと落ちてくる涙を必死に腕で拭っていると、奥のベッドのカーテンが開き怖い顔をした修斗さんがこっちを見た。 「……し、修斗さ……ん?」 驚いて固まっていると、修斗さんは俺の手を取りすごい力でベッドまで引っ張っていく。 「センセーちょっとどっか行っててよ」 「は? 何言ってんの、ダメだよ。僕の保健室だよ」 「じゃあいい! 康介と話するから向こう向いてて」 「………… 」 修斗さんはベッドに俺を座らせるとカーテンを閉める。 「なに? なんでセンセーに泣きっ面見せてんの? そんな顔、俺以外に見せないでよ」 怒ってるはずの修斗さんが俺の前にしゃがみ込み、俺の顔を覗き込むようにそう言って、手の平を俺の両目にあてる。 「もう泣かないで。ごめんね、怒ってないから」 「………… 」 優しい声。 てか、謝るのは俺の方なのに。 「修斗さん……ごめんなさい」 俺の涙を拭ってくれてる修斗さんの手を掴み、ちゃんと顔を見て謝る。 「あはは……なんて顔してんだよ。ごめんな、鼻血出ちゃったんだ。痛かった?」 赤い顔をして笑いながら、俺の頬に頬ずりしてくれる修斗さん。 ……なんか子ども扱いだ。 「別にこんなの痛くないし」 「でもさ、やっぱ俺ダメ……外でその、ああいう事……恥ずかしいし、我慢できなくなるからさ……もうやめてね」 「……うん」 「誰も見てないところなら、康介の好きにしていいからさ……」 照れくさそうにそう言って、修斗さんは俺に優しくキスしてくれた。

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