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ライブ

陽介さん靖史さんのニ人とまた落ち合い、ライブの準備で僕も一緒に体育館へと向かった。 去年もこの体育館で僕は周さん達のライブを見た。 少し小柄な圭さんがステージいっぱい動き回って客を煽り歌う。凄くカッコよくて楽しくて……でも今年はその圭さんはいない。 圭さんの抜けたD-ASCH、周さんと修斗さん、靖史さんの三人での最初のライブ。 去年の事を思い出し、僕は少し寂しい気持ちになっていた── 体育館には既に沢山の人が集まっていて、熱気が伝わる。 その熱気を感じながら、体育館の隣の準備室へ入った。 もう修斗さんは先に来ていて、椅子に座ってベースを弄っている。隣に座る康介はそんな修斗さんを見つめていた。 「康介お待たせ」 僕は康介に声をかけ、周さんたちに「頑張ってください」と伝え、陽介さんと一緒にまた体育館へと向かった。 「今回から周さんがギターボーカルなんだよな? なんか楽しみだな 」 康介がにこっと笑って僕を見るから、そうだね……と頷く。 周さんがソロで歌ってるのは今まで何度か見た事はあるけど、今度は圭さんがいないステージで周さんがボーカル。周さんは緊張しているそぶりなんてまるでないのに、何故だか僕だけ緊張していた。 「あいつら圭ちゃん抜けてから一度もライブやってなかったんだよな。まあ、練習はしっかりしていたみたいだけど?」 陽介さんの言葉に小さく頷く。 「………… 」 『そういえばメンバー変わったんだって? 知ってた?』 『え? 知らない! 誰か変わったの?』 『いや、ボーカルが抜けたらしいよ』 『えー! 圭? 私好きだったのに……』 『じゃあ誰か代わりに入ったの?』 『さぁ、どうだかな……』 どうしても周りの会話が耳に入る。 勿論圭さん目当てで来た人だっているのはわかるんだけど、やっぱりあまりこういうのは聞きたくないって思ってしまう。 そう……ライブが久々だから、圭さんがいないから…… 僕は変に緊張していた。 人混みをかき分け、なるべく真ん中あたりをキープして僕らはライブが始まるのを待った。 「竜太君……もしかして緊張してるの?」 陽介さんに顔を覗かれ笑われる。 「あ、はい……なぜか僕、ドキドキしちゃって」 「周は大丈夫だよ。俺こないだスタジオ行ったんだけどさ、あいつの作った新曲、凄く良かった……あ、ごめんな、先に聞いちゃって。竜太君が緊張する事なんてないから。楽しもうな」 陽介さんにそう言われ、少しだけ気持ちが落ち着いた。 しばらくして照明が落ち、ステージに三人が登場する。 その瞬間、フロアにいた客が前に押し寄せライブが始まった。 いつもの定番の一曲目── 同じ曲なのに、圭さんと周さんとではまた全然違った曲に聞こえる。それくらい圭さんと周さんは声の雰囲気、歌う雰囲気が違っていた。 周さんの声は太くてしっかりと通るのにとっても優しい。 僕の大好きな声…… ステージをフルに使ってパフォーマンスしながら歌う圭さんとは逆で、周さんはあまり動かずに力強く歌う。 気がついたらステージの上の周さんと視線が重なる。 恥ずかしいのに、目が離せない…… 周さんはそのまま僕を見つめて歌ってくれた。 一曲目が終わると、周さんが話し出す。 圭さんが脱退した事、圭さんが戻るまで自分がボーカルをする事、新生D-ASCHをよろしく……という事を坦々と話してからニ曲目が始まった。 気がついたら康介は前の方まで行っていてノリノリ。隣には真司君達も来ていた。 僕は同じ場所で陽介さんとニ人並んで静かに周さん達の曲を聞く…… そしてお馴染みの曲を数曲終え、その後に周さんが作詞したという新曲が始まった。 ギター演奏だけの静かな曲。 愛しい人と共に歩く。日々の感謝、旅立ち、環境が変わってもずっと側にいるよ……っていうラブソング。 曲が終わるまで僕の事をジッと見つめて歌ってくれた。 きっと僕の事を思って歌ってくれたんだよね? 去年のこのステージでも周さんは僕のために新曲を歌ってくれた。 僕は幸せな気持ちになり、今すぐ周さんを抱きしめたい気持ちでいっぱいになった。

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