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メイド喫茶

一年生のフロアに行くと、入江君達のメイド喫茶以外にもコスプレをしているクラスが多いらしく、凄い人で盛り上がっていた。 「祐飛のクラス、どこだ?」 康介がキョロキョロと周りを探す。すると廊下の向こうから工藤君が僕らに気がつき手を振ってくれた。 僕らの方へ駆けつけた工藤君は以前言っていた通りのカッコいい執事のコスチューム。髪の毛もいつもと違ってオシャレにセットしていた。 「渡瀬先輩来てくれたんすね! あ! 橘先輩! 谷中先輩! 昨日のライブ見ましたよ! 超カッコよかったっす! 今日も頑張って下さい! ……あ、俺らのクラスこっちね」 興奮気味な工藤君に連れられて、僕らはメイド喫茶へ向かった。 「うわぁ、すごい混んでるね……入江君は中で接客してるのかな?」 廊下の窓から中を覗き込みながらそう聞くと工藤君は「大丈夫大丈夫」と言い僕らを中に案内してくれた。 「人いっぱいだけど実際並んでるのはこれだけだから。そこで溢れてる人らは野次馬。ただの見物客です。ちょうどテーブルひとつ空くからそこにどうぞ〜」 そう言って工藤君はテーブルに案内してくれ「ごゆっくり……」と言いながらメニューを置いて行ってしまった。 「すげぇ、メイドさん沢山いる。てか見るに堪えないのも若干いるけどな」 康介がキョロキョロしながらクスクス笑う。可愛く変身したメイドさんややる気のなさそうな男そのまんまのメイドさん。実に様々なメイドがいっぱいで、見ているだけで楽しくなる。 「ねえ見て、このメニュー。ケーキもあるよ。竜太君もちろん食べるよね? 周はコーヒー? あ! なんだろこれ……指名したメイドさんにケーキをアーンしてもらえるみたいだよ。康介やってもらえば?」 周りのテーブルを見てみると、メイドさんが一緒に座ってて楽しそうにイチャイチャしてる。 男同士で「アーン」ってしてたり、女の子のお客さんに執事のコスチュームの生徒が食べさせてあげてたり…… 楽しそう。 「は? 何で俺? 修斗さんがやってもらえばいいじゃん」 「えー? 俺やってもらっていいの? 本当にいいの? 俺は康介にアーンしてもらいたいな」 修斗さんは隣に座ってる康介の肩に頭をすりすりして揶揄っている。 また修斗さんの康介弄りが始まった…… 「アーンなんかしませんよ! もう、恥ずいから頭離れて」 「なに? 照れてるの? じゃあ俺がアーンしてあげよっか? それとも俺にアーンしたい?」 「……! ちょっ、ほっぺに触るな、修斗さんやめて、恥ずかしいっ!」 勝手にイチャイチャし始めた修斗さんと康介はほっといて、僕は近くにいたメイドさんを呼び止めた。 「あの……入江君はいるかな? いたら来てもらいたいんだけど」 僕がそう言うと、少し体格のいいメイドさんはニコッと笑ってカーテンの裏に回った。 少しして、さっきのゴツいメイドさんとは対照的な可愛らしいメイドさんが僕らのテーブルにやってきた。 「………… 」 「……入江君?」 セミロングのウィッグをかぶり、メイクも施して本当の女の子みたいになってるこのメイドさん。昨日も思ったけど、やっぱり別人みたいでよく見ないと入江君だとは気がつかないかも。 「あんま見ないでください。別に来なくてもよかったのに」 不機嫌丸出しで睨まれてしまった。 「祐飛、超可愛いじゃん! 化けるよね〜。てかもっと笑えよ」 康介が入江君の脇腹を突っつきながら笑う。 「うるさい、触んな! ……ご注文は? さっさと頼んで下さい」 ニコリともしないでぶっきら棒。でも可愛い。 「あ、俺と竜太君は紅茶とケーキね。周と康介はコーヒー。真司君はどうする? コーヒーでいい?」 修斗さんが真司君に聞くと、少しだけ赤い顔をして頷いた。 「俺、コーヒーとケーキ。あ……あと俺にアーンして下さい!」 急に立ち上がった真司君は、入江君に向かってぺこりと頭を下げる。 ぽかんとした入江君が、物凄く嫌そうな顔をしてそんな真司君をジッと見る。 「ちっ……しょうがねえな。はいかしこまりましたー」 嫌そうなのを隠しもせず棒読みで入江君はそう言うと、僕らのオーダーをメモに取り行ってしまった。 「なにあれ超可愛い! 俺、気の強そうな女めっちゃタイプなんすよ。ひゃー、可愛かった!」 頬に両手をあてて、照れながら真司君はそう言うけど…… 「可愛いけど、あれ男の子だよ? わかってるよね?」 声だって男の声だし、気づいてないわけないと思うけど、僕はそう言って真司君の顔を見た。 「あ、そうだった……」 一瞬固まった真司君に、康介と修斗さんは爆笑してる。 「いや、でも可愛いし……あのツンツンしてるのがいいんですよ。ね? わからないかなぁ、ああいう子がさ、ふと笑ったりするともう堪らないんですって」 真司君は入江君が男の子だという事はさておき、一生懸命熱弁してる。真司君、舌打ちまでされてたけどそういうの気にしないのかな。 気がついたら背後に怖い顔をした直樹君が立っていた。 「あ……今日も来てたんだ。直樹君」 今の聞こえてた……かな? 「来ますって! 当たり前でしょ! ほら祐飛の可愛さにまたアーンしてなんて言うムカつく奴が現れるんだ。ちょっと君! 祐飛にアーンしてもらうなんて十年早いからね!……俺だってまだやってもらってないのに……」 最後は僻み丸出しで直樹君が文句を言う。 でもすぐに入江君が飛んできて、直樹君の頭を叩いた。 「直樹! 接客の邪魔すんな! ほら、あっちテーブル呼んでんぞ。オーダー取ってこいよ」 「ええ……もうわかったよ。あんまり俺以外に愛想振りまかないでよね。ダメだよ、聞いてる? 祐飛ってば……」 ぶつぶつ言いながらも直樹君は入江君の言う通りにオーダーを取りに行ってしまった。 ……直樹君はこの学校の生徒じゃないよね。 よく見ると直樹君は人一倍よく働いてるから笑ってしまった。 「直樹君、すっかりクラスの一員だね。可笑しい。どんだけ愛されてんのさ? もう彼のこと認めてあげればいいのに……」 修斗さんがコーヒーを持ってきた入江君にそう声をかける。 「うるさいな……認めるもなにも、直樹は俺の大事な友達です」 仏頂面のまま真司君の隣に座り、持ってきたケーキにフォークを刺した。 「ほら、どうぞ……アーン」 いきなりの入江君の行動に、真司君は真っ赤になりながらもじもじしてケーキを食べる。 「……美味しい?」 真司君の顔を間近で見つめ、わざとらしくにっこりと笑って小首を傾げる入江君に、真司君はアワアワと慌てるからそんな様子が可笑しくてみんなで爆笑してしまった。

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