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変わらない?

最近男らしく変化している竜太を見てモヤモヤした気分になる── 勿論それは竜太が悪いんじゃない。なんて言うんだろう? 竜太の周りの態度というか……そうだな。 きっと俺は焦ってるんだ。 出会った時から竜太はかっこいいし優しいのもわかってたけど、その頃から随分と背も伸びて大人びてきた。それに積極的に他人とも触れ合うようにもなった竜太は本人の知らないところでどんどん注目を浴びている。 目立つんだ…… 俺がついてないとダメだと思っていたのに、いつの間にか逞しくなってる竜太に置いていかれそうで、その上来年の春には俺は学校を卒業する。 俺の方こそ竜太がいないと不安でしょうがなくなってしまっていた。 だってそうだろ? 今は竜太の日常に俺が当たり前に存在してる。でも卒業したら竜太は部活やバイト、友達付き合い、竜太にとって俺の存在が薄くなるかもしれないんだ。 前に修斗が「この先どうなるかなんてわからない」って言ってた事があった。好きだけど、ずっと一緒にいられるかなんてわからないって……その時は、好きなのにそんな風に思う気持ちが理解できなかったけど今になってわかる気がした。 「竜太……もう半年もすればさ、俺は卒業しちゃうけど、それでもずっと一緒にいてくれるか?」 思わず竜太にそう聞いてしまった。竜太がなんて答えてくれるかなんて分かりきっている。 「当たり前ですよ。ふふ……周さんが卒業しちゃっても、今となにも変わりません」 優しく見つめ「大丈夫……」と俺にキスをしてくれる竜太。きっと竜太は俺のこの僅かな不安も感じ取ってくれている。俺が前に竜太に「大丈夫だ」って言ってやったのに、俺がこんな事考えてしまってるなんて笑っちまうな。 今となにも変わりません……か。 でも変わるんだよ。 どんどん俺らの環境は変わっていくんだ。 そう思ったけど俺は「そうだな」と頷いた。 きっとこんな風にナーバスになってるのはお袋の再婚の話もあったから。 自分の意に反してガラッと環境が変わってしまうって事を目の当たりにしたから。 謙誠にはまだ言ってないけど、俺は一緒には住めないってことをちゃんと伝えないといけない。一人でここに残るのを認めてもらったら、もしかしたら竜太と同棲できるかもしれない? そんな事を考えてたら、ちょっとだけ浮かれて元気が出てきた。 俺って単純。 文化祭ニ日目のライブが始まる── 圭さんのいない、三人だけのD-ASCH。 解散しないで三人で圭さんを待とうと話し合った。 待ってる間は俺が圭さんのかわり…… ステージを見つめる竜太の顔も少しだけ寂しそうに見えた。 俺は去年も竜太を思って新曲を作った。 あの時は好きで好きで堪らない、溢れる気持ちをそのままに詩を書いた。 でも今度のは違う。 好きで好きで堪らないのは変わりないけど、自分の不安な気持ちも歌にした。 俺がいないと生きていけない…… そのくらい竜太が俺のことを必要としてくれればいいのに…… そんな事を思いながら俺は歌った。 少しだけ後方で、俺の事を見つめる竜太。 俺の愛しい人。 隣には陽介さんと康介。 康介は竜太の親友。 顔を寄せ合い何かを話してる。 何てことはない普通の光景、いつもの光景。それだけなのに何故か俺の心はつきんと痛んだ。 俺の歌をちゃんと聴け。 俺だけを見てろよ…… 俺以外の奴と楽しげにしないでくれよ。 歌いながらこんな事を考えてしまうなんて、自分の独占欲が嫌になった。 気がつくと、ここ最近やたらと竜太にくっついている真司とかいう奴も隣に来ていた。俺と目が合うと真司も嬉しそうに笑顔を見せ俺に手を振る。 お前のために歌ってるんじゃねえよ。 竜太にくっつくな! 心の中でそう叫ぶと、真司は竜太の肩を抱き楽しそうに頬を寄せた。 あ…… その瞬間、何かが俺の中でグラっと動いた。

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