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周さんの突然の行動
ちょっとだけ元気のない周さんとキスをしていたら、陽介さんと靖史さんに見られて怒られた。
恥ずかしくて僕は周さんから離れると、周さんもいつもの調子に戻っていて少し安心する、
「修斗はまだ来てねえの? 今日は遅えな」
靖史さんがキョロキョロ周りを見渡していると、少し遅れて修斗さんもやってきた。
一緒に来ていた康介と、陽介さんも一緒に僕らはまた体育館へと向かう。
今日のライブが終わったら、靖史さんの家で打ち上げをやるって教えてもらった。
「圭ちゃんみたいに料理の用意なんかは出来ないけどね。適当に買ったりデリバリーとかでいいよな。あと酒もだめ。一応靖史の家は酒屋だし、未成年には売れねえからな」
そう言って陽介さんは笑った。
でもみんなで集まってご飯食べるの楽しみだな。
昨日と同様、体育館には凄い人が集まっていた。
「今日も凄いね……康介はまた前の方に行くの?」
僕は昨日と同じ場所で陽介さんと並んで出番を待つ。
「いや、今日はここでいいや。竜と一緒にいるよ」
そう言って康介もその場に留まった。
三人がステージに登場して、昨日と同じ一曲目でライブが始まった。
今日も周さん、かっこいい。体育館にいる全員が一緒に盛り上がる。
心地のよい一体感。
隣で飛び跳ねている康介も楽しそうで僕も嬉しくなってくる。
数曲ノリのいい曲を終えると、また周さんのギターであの曲が始まった。
さっき周さんが、この曲は僕を思って作ったと教えてくれた。昨日初めて聞いてちゃんとわかっていたけど、改めて周さんからそう言ってもらって僕は凄く嬉しかったんだ。
サビの部分が終わると、おもむろに康介が僕の肩を叩く。
「この曲ってさ、竜の事を歌ってるんだよね? いい曲だね。竜、よかったな。めちゃくちゃ愛されてんな」
僕に聞こえるように耳元でそう言って笑う。
ちょっと照れくさくて、でも嬉しくて、僕も康介に笑いかけた。
そんな時、急に後ろから真司君が現れて僕と康介の間に割って入ってくる。相変わらず鬱陶しい……
でも僕は周さんの歌を聴きたかったから、気にせずに前を向いた。
「おーい、橘先輩かっこいいな! 竜太〜、楽しんでる? あ、目が合った! 橘先輩! きゃー!」
ステージの周さんに向かって楽しそうに手を振る真司君。
……うるさいな。
ちょっとイラッとしたと同時に、真司君に肩を組まれた。ご機嫌で僕の頬に顔を寄せ、嬉しそう。真司君は悪気はないんだろうけど、ちょっといつも強引。煩いし気が散るし、もう周さんの歌、終わっちゃうじゃん!
「もう、真司君近すぎ! うるさい、離れて…… 」
真司君の腕を掴んで離れようとしたその時、体育館が騒ついた。
「おい、竜……」
康介が僕の腕を突く。
フッと周さんの気配を感じ、まさかと思ってそこを見ると目の前に周さんが立っていた。
え……
え……?
とっくに曲も終わり、なぜだか目の前に周さんが立っている。
ステージは?
は?
なんでこんな所に?
僕のことを真っ直ぐ見つめて……
「周……さん??」
騒つく中、何も言わずに周さんは正面から僕のことを抱きしめた。
女の子の悲鳴のような声や、騒めき、雄叫びみたいな声も上がる。
何?
どうして?
僕を強く抱きしめる周さんが、僕にだけ聞こえるように小さな声で囁く。
「竜太、ごめんな……我慢できなかった」
それだけ言うと、周さんはまたステージへと戻っていった。
「………… 」
どよめき、好奇の目が僕に向く。
それでもすぐにまた演奏が始まり、みんなはステージの方へ注目した。
周さん?
びっくりした……
康介と顔を見合わせる。
横では真司君もぽかんとしていた。
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