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打ち上げ

「僕、靖史さんの家初めてかも……あ、もしかして靖史さんも圭さんみたいに一人暮らしなんですか?」 スーパーでジュースやお菓子を買いながら僕は靖史さんに聞いてみた。 靖史さんは陽介さんや圭さんとは中学時代からの友達だ。陽介さんや圭さんと同級生のはずなのに、なんだかニ人より大分大人びて見え、そして口数が少ないのもあって正直怖そうなイメージがあった。 でも凄く優しいのがわかるから、僕は大好き。 「一人暮らしじゃねえけど、部屋が家や店から離れてるから多少騒いでも大丈夫だぞ。ま、親を気にしなくていいってとこは一人暮らしみたいなもんかな……竜太君も周と喧嘩したり一人になりたい時なんか俺の部屋に来てもいいからね」 そう言って靖史さんが笑うと「ちょっと! 竜太に変な事言わないでくださいよ」と周さんはプゥッと頬を膨らませた。 飲み物、お菓子……とカートに入れて店内を回っていると携帯の着信音が鳴る。 「あ……志音? どうしたの?」 電話の相手は志音だった。 『ちょっと、康介君から聞いたけどさ、後夜祭にでないのはわかるけど後片付けとかどうすんの? 竜太君サボり?』 あ…… 周りの雰囲気が悪くて嫌になって帰ってきちゃったけど、そうだよね。クラスの片付けとかあったんだ。 うっかりしてた。 そんな事も頭から抜けちゃうなんて、やっぱり僕は少し動揺もしてたみたい。 「ごめん……そうだよね。僕うっかり帰ってきちゃったよ。ごめんね。みんなにもそう言っておいてくれると助かる」 『まったくもう! わかったよ……あとさ、遊佐君って言ったっけ? 彼が周さんに殺されるかもしれないって怯えてるんだけど……遊佐君、何かしたの?』 遊佐君? あぁ、真司君のことか…… そう言えば志音は体育館にもいなかった。だからあの事を知らないのかな? 「あ……ちょっとね。志音は今日のライブは見てないの?」 『ん? 今日は仕事あったからついさっき学校に来たんだよ。ほんと片付けに来ただけっていうね。真雪さんがさ、ちゃんと学校行けってうるさいから……あ、何? 代わる?』 志音が喋っていたのに、わたわたと真司君が電話に出る。 『なあ! 悪かったよ。俺は全然知らなくてさ……橘先輩の……あれ、そういうことだろ? 俺、そんな気ないからさ、誤解だから! キスのこともさ……』 は? ちょっと! 志音だってすぐそこにいるんでしょ? 真司君、何口走ってるんだよ! 「ねえ! これ以上その事言ったら、僕が殺すよ! 黙れよ!」 思わず声を荒げると、近くにいた周さんと陽介さんがギョッとした顔で僕の事を見た。 『わかったわかった! 言わねえって……ごめん。本当信じて! 俺は普通に友達として仲良くしたかっただけだからさ、橘先輩にもそう言っておいてくれると嬉しいな……』 そう言って真司君はまた志音と電話をかわった。 『ねえなに? キスって……彼と何かあったの?』 ほらみろ、志音に勘ぐられた。 「……うん、たいしたことないんだけど、それは今度改めて話すよ。それよりごめんね。片付けよろしく」 電話を切ると、陽介さんが心配そうに僕に寄ってきた。 「どうしたの? 竜太君らしくない……」 「僕だって冗談を言う事もあるんです。気にしないでください。はい! 早くレジ行きましょう」 これ以上変に思われたくなかったので、笑いながら僕は話を終わらせた。 靖史さんの部屋に到着すると、早速買ってきたものをテーブルに並べる。 程なくして修斗さんと康介も到着して、今年もまた文化祭ライブの打ち上げを楽しんだ。 そうそう、ビンゴ大会の景品は昨年の景品が豪華すぎたために今年は大したものじゃなかったと康介が残念がっていた。 そして昨年に運を使い果たしてしまったのか、今年は何も景品をもらえなかったらしい。 「まぁ去年はみんなの運が良すぎたんだよね。しょうがないよ。とりあえずさ、今年も文化祭お疲れ様でした!」 修斗さんが掛け声を上げ、みんなでジュースで乾杯をした。

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