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竜太の誕生日/全力でお祝い
今日は僕の誕生日──
周さんの家で、雅さんも一緒にお祝いをしてくれるんだって。
僕はちょっとだけめかしこんで、周さんの家に向かう。今日は僕の誕生日のお祝いだけじゃなくて、雅さんにもおめでとうを伝えないと……
詳しくは知らないけど、雅さんはずっと一人で周さんを育てて頑張ってきたんだ。
これからもそれは変わらないけど、最愛の人に出会って一緒になれる。
もう一人じゃない……
こんな嬉しい事はないよね。
結婚ってどんななんだろう。
大好きな人と支え合って補い合って、毎日を共に過ごせるなんてどんなに幸せなことだろう。
……僕はこれから先、大人になってもずっと周さんと一緒にいられるのかな? いられるといいな。
チャイムを鳴らすと玄関のドアがパッと開く。
そこには満面の笑みの雅さんが立っていて、僕をあたたかく迎えてくれた。
「竜ちゃんいらっしゃい! 待ってたわよ。ほら入って入って」
楽しげな雅さんに急かされるようにして、僕は室内に入る。
キッチンのところには、ケーキを手にした周さん。
「わぁ! 凄い! 美味しそうなケーキ」
思わず声を上げると嬉しそうに周さんも笑ってくれた。
「お袋が粉まみれになって作ったケーキだぞ。まぁ俺も手伝ってやったんだけどな」
得意そうな周さんに雅さんは不貞腐れる。
「ちょっと余計なこと言わないでよ。周なんて何にも役に立ってなかったじゃない……ふふ、でもきっと竜ちゃんの作るケーキの方が美味しいと思うけど、愛情はたっぷり込めてあるから格別よ」
嬉しい! 忙しい雅さんが僕のためにわざわざ手作りでケーキを焼いてくれた!
「ありがとうございます……凄い、ご馳走もいっぱいだ」
ケーキだけじゃなく、テーブルには美味しそうな料理も並んでいて、さっきからいい匂いが立ち込めていた。
おまけにあれは僕の席かな?
キラキラしたリボンが一つの椅子に可愛らしく飾り付けられていた。
「ここな、竜太の席なんだとよ。笑っちまうよな? ガキじゃねえんだから……」
周さんは苦笑いでそんなことを言ってるけど、僕は小さい頃に母さんが誕生日のお祝いをしてくれた時のことを思い出していた。
小さい頃はこうやって、椅子や部屋に沢山の飾り付けをしてお祝いしてくれたっけ……
「いえ、そんなことないですよ。僕凄く嬉しいです。雅さん、お忙しいのにありがとうございます」
周さんが椅子を引いてくれたので、僕は先に席に着く。
「まったく、周ったらガキ臭いことすんなってうるさいのよ。酷いわよね。こいつ小学校の頃からこんな調子でね……ちゃんとお祝いさせてくれなかったのよ。全く可愛くないわよね」
少しだけ寂しそうな表情を見せる雅さん。
「お袋、俺がガキの頃から毎日忙しくて疲れてただろ? なのにそんな面倒くせえことしなくていいって思ってたから……」
そう言った周さんの顔を見て、雅さんは複雑な顔をして笑った。
「ね、竜ちゃん。こいつ小学校の頃からこんなんで可愛くなかったのよ。やぁね……」
周さんも子どもなりに雅さんのことを頑張って支えてたんだな。心なしか雅さんもちょっと嬉しそうだった。
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