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竜太の誕生日/再婚のお祝い
目の前にケーキを置かれ、雅さんがロウソクに火をつけてくれる。
ノリノリで雅さんがバースデーソングを歌ってくれて、おまけに隠し持っていたクラッカーまでパンパンと鳴らしてくれた。
「お袋! やりすぎ……恥ずかしいだろ」
周さんが雅さんに冷たくそう言う。
僕も少し恥ずかしかったけど、きっと雅さんは子どもの頃の周さんにもこうしてきたかったんだろうな……って、そう思った。
「周さん、そんな風に言わないでください。僕は凄く嬉しいですよ」
三人で雅さんの用意してくれたご馳走を食べ、ケーキもいただく。
お茶を飲んでる間に、雅さんからプレゼントをもらった。
「なんかね、竜ちゃんは周と違って本をよく読んでるんだろうなってイメージがあって……」
そう言って渡されたプレゼントは、茶色の革製のブックカバーだった。
「わぁ、かっこいい! なんか大人っぽい! 雅さん、ありがとうございます!」
嬉しくてちょっと舞い上がってしまった。
……あ!
忘れるところだった。
「あの、雅さん。僕、周さんから聞いたんですけど……再婚おめでとうございます。僕なにかお祝いしたくて、色々と考えたんですけど、プレゼントくらいしか思い浮かばなくて……」
そう言って僕は持ってきたバッグから、雅さんへのプレゼントを取り出した。
「え……私に? 竜ちゃんが?」
嬉しそうな顔でプレゼントを受け取り、丁寧にリボンを解いて中身を取り出す。
僕が考えたプレゼントは、可愛らしい花の刺繍を施した清楚な感じのエプロン。
「わぁ……綺麗」
体の前で広げる雅さん。
よかった。凄く似合ってる。
「新婚さんだから……エプロンがいいかなって思って。雅さんならこういう可愛らしいのも似合うと思って選びました」
雅さんは、くしゃくしゃの笑顔で喜んでくれた。
「竜ちゃんありがとう、凄く嬉しい! そうだ、竜ちゃんに話しておかなきゃいけないことがあるの。周も聞いて……」
雅さんは僕のプレゼントしたエプロンを綺麗にたたみ直して脇に置いた。
「あのね、再婚する事になったんだけどね……謙ちゃんが……あ、謙ちゃんって相手のことだけど、私と周も謙ちゃんの所で一緒に暮らすって言ってるのよ」
「………… 」
「お袋! それ、俺は行かねえよ。こないだそう言ったよな?……まだ謙誠さんには言ってねえけど、俺は絶対嫌だからな!」
周さんが慌てて雅さんに詰め寄る。僕だって周さんが遠くへ行っちゃうのは嫌だよ。
でも……僕はこの事に口出しする権利なんてない。
「わかってるわよ、そんな大きな声出さないで! 謙ちゃんには私から話したの。卒業まであと少しだし、周にはやりたいこともあるみたいだから……周なりに考えてるのよね? 竜ちゃんとも離れたくないだろうし、私は好きにしなさいって言ってあげたいから……って」
「………… 」
「いくつかの約束事をちゃんと守れるようなら、あなただけこのアパートに残ってもいいって。どう? 周、これでいいかしら?」
……それって、周さんは遠くへ行かないって事だよね? よかった!
「もちろん! お袋、ありがとう」
「でも、近いうちに謙ちゃんと三人で話はするわよ。日程決まったら教えるから、ちゃんと空けておきなさい」
「はい……」
雅さんはそれだけ言うと、仕事があるからと支度を始めるために奥の部屋へ行ってしまった。
「周さん、もしかしたら遠くへ行っちゃうのかなって、少し心配してました。よかったです」
僕は安心してケーキの残りを口に放った。
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