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竜太の誕生日/やっと二人きり

それからすぐに、支度を終えた雅さんが部屋から出てきた。 「あ、竜ちゃん……後ね、すごく今更なんだけど……今度竜ちゃんのお母様にも私、ちゃんとご挨拶したいのよ。ずっと周のことでご迷惑おかけしちゃってるから。てかこれからもご迷惑かけちゃうことになるんだろうけどね。だからちゃんとお会いしておかなきゃって思うの」 申し訳なさそうに僕に言うけど、実は母さんも周さんのお母さんと会ってみたい、挨拶をしたいって言っていたからちょうどよかった。 そのことを伝えると、雅さんは安心したように笑った。 「じゃ、その件はまた都合のいい日を聞かせてもらって伺わせてもらうわね。ありがとう。竜ちゃんまたね。私はこれから仕事で出るから……あとはごゆっくり」 雅さんはそう言って、僕にハグをして出かけて行った。 「……ったく。いちいち竜太に抱きつくなっつーの」 周さんはぶつぶつ言いながら僕を後ろから抱きしめる。 「やっと邪魔者が消えた。竜太髪切ったからか、なんかうなじがエロいな……」 耳を軽く食みながら言うもんだから、擽ったいよ。 「や……周さん、ドキドキしちゃうから」 「いや? ドキドキしてもらわねえと困るし……竜太キスして」 肩を掴まれ体の向きを変えられた。 僕は周さんの肩に両手を回し、下から見つめる。 「あの、ちょっと屈んで下さい……」 僕より遥かに背の高い周さん。悔しいけど届かないんだ。 「ん? なんで? どうして?」 「………… 」 意地悪そうな顔をして、小首を傾げて周さんが笑ってる。 「なんでって……と、届かないから」 「え? 何が?」 少し屈んで下を向いてくれればいいだけなのに、周さん面白がってわざと軽く上を向いてる。 ……もう、しょうがないなぁ。 「周さんと、キス……したいからちょっとだけ屈んで」 ジッと見つめてそう言うと「はい、よく言えました」と周さんは笑い、やっと屈んで僕に軽く啄むようにキスしてくれた。 「じゃ、僕は後片付けしますね。お皿洗っちゃうから周さんは食器持ってきてください」 すぐに周さんから離れてキッチンのシンクの前に立つ……このままキスしてたら、変な気分になっちゃいそうだから。それに今日は周さんが泊まっていってもいいって言ってくれたから、まだまだ一緒に居られる時間はたっぷりあるし。 ちょっとエッチな気分になってしまったのを誤魔化すために、僕は黙々と洗い物を始めた。 「………なぁ、急に洗いもんなんてやんなくていいだろう? ねえ、竜太」 周さんが後ろから抱きついてくる。 嬉しい。でも…… 「だめです。ちゃんと片付けてからニ人でゆっくりしましょ? ね、ほら周さんも手伝ってください」 そう言って纏わりついてくる周さんをやんわりとかわしながら、僕はテーブルの後片付けを済ませた。 周さんはというと、最初は手伝ってくれたものの、気が付いたら奥の部屋でゴロンと横になりテレビを見ている。 あ…… 後ろ姿がちょっと不貞腐れてる。相変わらずわかりやすい。 ごめんね周さん。もう少し待っててね。

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