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今年もまたやってくる
文化祭が終われば今度は体育祭が待っている──
すっかり忘れていたけど、先程写真部の先輩が一枚のチラシを持ってきた事で僕の頭の中に嫌な記憶が蘇った。
「凄いね、何あれ。竜太君も見てくる?」
僕の机の前に座る志音が、呆れたように廊下側の人集りを眺めてる。
「ん……僕はいい。興味ないし……ほんと気分悪いよね。何が面白いんだかさ」
一部のクラスメイトが集まって見ているのは、さっき先輩が持ってきた一枚のチラシ。そこには文化祭の時の写真なんかが数枚載っている。
選ばれた数人の一年生の写真。
その写真を見て、賭けの対象となる景品……いや、一年生を一人選出するらしい。
そう、この学校では選ばれた一年生とのデート資格と賞金を賭け、ニ、三年生が体育祭で争うんだ。
賭けに参加したければ、五百円を主催する写真部へと支払う。五百円を払えばそれでエントリーとなる。
くだらないこの賭け事。
僕は去年の「ラッキーボーイ」だった。ラッキーボーイというのがその選ばれた一年生の事。
体育祭優勝クラスのエントリーしてる人の中から、ラッキーボーイ自らデート相手を選ぶシステム。勿論デートはしないで賞金を山分けしてもいいらしいんだけど、選ばれた方からしてみたらちっともラッキーなんかじゃない大迷惑な話だ。
「あ、ねぇ……今年も高坂先生は参加するのかな?」
そうなんだ。この賭けの存在は先生達は勿論知らないところでやっている。それなのに何故か去年は高坂先生もエントリーしていた。
先生曰く、ラッキーボーイに選ばれてしまった子のために自分が保険となるようにってエントリーしてるんだって。全く知らない先輩をデート相手に選ぶよりかずっと安心だろ? って言い分。
去年は僕がラッキーボーイに選ばれて、周さんが大慌てで体育祭に参加したのが面白かったらしくて、揶揄い半分で参加したって言ってたけど……
「あぁ、それね。生徒のためとか言って先生毎年参加してたみたいだけど、俺はやっぱりあまり面白くないからもうやめてねって言ってある……」
不愉快そうに志音がそう言う。
その前の年はラッキーボーイに選ばれた修斗さんが先生とデートしたって言ってたし、自分の恋人がそういう賭け事に参加するのはやっぱり気分良くないよね。
「おーい、竜太。ラッキーボーイ候補見た?」
突然背後から大きな声をかけられ、びっくりする。
「なに? 真司君びっくりするから突然声かけるのやめてくれる? それと僕はラッキーボーイとか興味ないから……」
後ろからくっついてくる真司君を手で押し返しながらそう言うと、そのまま真司君は話し始めた。
「あれ去年は竜太だったんだよな。毎年恒例なんだろ? 面白い事考える奴もいるんだな」
「は? ちっとも面白くなんてないよ。僕らは参加しないよ。まさか真司君、エントリーするの?」
不快感丸出しでそう聞くと、ぶんぶんと首を振る。
「まさか! 面白いとは思うけど、あの中にはデートしたいなって思える奴いねえもん。デートするなら俺、竜太がいいし」
「………… 」
後ろから抱きついてきて顔を覗き込まれる。
全く冗談なんだか本気なんだか……
「顔! 近いから! ……そういうのやめてよね」
むぎゅっと真司君の顔を押し返すと、目の前で見ていた志音がクスクスと笑った。
「なに? 真司君いつの間に竜太君に惚れちゃったの? 竜太君は無理だよ、諦めなって。俺でさえ落とせなかったんだから君には絶対に無理」
志音が揶揄うと、ぷんぷんしながら食ってかかった。
「なんだよ、無理とか言うなよ、わかんねえだろ? いいじゃんか別に……好きになるのは自由だ!」
……真司君さ、女の子が好きだったよね? そんな気全くなかったはずなのになんなの?
「真司君なにムキになってるの?」
「あぁ!? なにそれ! 竜太それどうしたの? 何で指輪??」
突然僕の手を握りしめ、指輪をしげしげと眺める真司君。 話題が目まぐるしく変わって疲れる……
「周さんから貰ったんだって。素敵だね。左手の薬指になんて嵌めちゃってさ。竜太君愛されてるよね。真司君残念、やっぱり君が付け入る隙なんてどこにもないみたいだよ」
更に志音が真司君を揶揄った。
「ふんっ、いいもんね。そんなの気にしねえし……」
やっと真司君は僕から離れ、教室から出ていった。
「………… 」
「なんかいきなりだよね。真司君どうしちゃったんだろう。見てる分にはかなり面白いけど……」
「志音、あまり揶揄わないでよ。僕疲れちゃう……」
ほんと、最近の真司君にはうんざりしていたので心の底からそう思った。
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