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余裕
100m走は学年毎に順に行う。
一年生が終わり、次はニ年生だ。
応援の声も盛り上がる──
康介は去年の体育祭で、100mやリレーで陸上部以上にかなり目立っていたから、自然と康介への声援が大きくなった。
そして康介と同じく志音への声援。
志音は学校行事を休むことが多い。だから体育祭に参加してることが珍しく尚更注目が集まった。
モデルをやっていてあの容姿もあり、かなり目立つし生徒の中でファンクラブみたいなものもあると最近知った。でも志音本人は知らないんだろうな。
「志音、頑張れー!」
なるだけ大声で僕は志音に声援を送る。
康介には悪いけど、やっぱり僕は自分のクラスの紅組を応援しなくちゃね。
「位置について……よぉい……… 」
……パァン‼︎‼︎
スタートの合図と共に選手が一斉に走り出す。
やっぱり予想通り康介が飛び抜けて早かった。でも、志音もそんな康介のすぐ横を走ってる。
え?……早い!
結局ゴール付近で康介に差を付けられ二着でゴールした志音だったけど、意外にも早くて驚いた。
応援席に戻ってきた志音に紅組のみんなが声をかける。
「志音君って運動出来る子だったんだね! 意外! めっちゃ早かったじゃん! お疲れ様、惜しかったよな」
「そう、俺運動出来る子よ。やっぱり康介君は凄いね。一瞬勝てると思ったんだけどな……最後疲れちゃった」
志音が笑ってそう言うと、周りは口々に「上出来、上出来!」と言い肩を叩き労った。
三年生も終わり、最初の種目100m走の結果は白組が一位を勝ち取った。
その後も順にプログラムが進み、お昼の休憩──
気になったから白組の康介のところへ行くついでに、僕は入江君の様子を見に行った。
「あ、康介。修斗さんのとこいくでしょ?……ねぇ、入江君はどうしてる?」
一年生の方を見ながら康介に小声で聞いてみると、そんな僕に向かって康介は呆れたように笑った。
「祐飛ね、もう知ってんだよ。見てみ、あれ……超余裕。むしろ言い寄ってくる先輩を蹴散らしてるよ。ありゃ心配ねえな」
康介の指差す方を見てみると、不機嫌そうな入江君が青組の先輩に向かって文句を言ってる。
「だから! 口説くんなら優勝してからにしてくださいよ。いちいちこっち来なくていいから」
「………… 」
びっくりしたけど、そんな入江君に近付き声をかけてみた。
「あ……渡瀬先輩」
「入江君、大丈夫?」
入江君に睨まれて思わず怯んでしまった。
「大丈夫もなにも、どうもしないし。てかこんな賭け事、下らなすぎて驚きです。でも臨時収入になるからその点はありがたいかな?」
悪戯っぽくクスクス笑う入江君。
「心配して損した……でも気をつけてね。何かあったらちゃんと言うんだよ?」
体育祭の後がまた大変なんだ。
まああの調子の入江君なら、大丈夫だとは思うけど。
「はぁい」
気の無い返事をしながら、入江君は教室へ行ってしまった。
「………… 」
康介の方を見ると、苦笑いで肩を窄める。
「誰かが賭けのこと言っちゃったみたいでさ、それからはずっとあんな感じ。余裕で先輩達をあしらってるけど、まあ俺も気にして見てるから、あんま心配すんな……」
ぽんぽんと肩を叩かれ、僕らもお昼を食べに校舎へ戻った。
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