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目障り
パンッ! というスタートの合図と共に、一斉に各陣地から人が飛び出す。
僕は真司君と一緒に一年生と棒を守ることにした。
真司君の隣に位置を取り、手前で棒の根元を支えるのに手を貸す。すぐに後方から衝撃が走り、腰や太腿を強かに殴られた。
人が密集する中、所々で乱闘になってるのを横目で見ながら、僕はグラつく棒の根元の方までなんとか進み、しっかりとしがみつく。その間も何度も背後から拳やら足やらにどつかれたけど、僕は痛みよりも守らなければ! という気持ちでいっぱいだった。
「なぁ……目障りなんだよね。お前らキモいんだよ」
突然背後から誰かにのしかかられ、耳元で囁かれる。その人の腕が僕の首に巻きつき、じわじわと締め付けてきた。
「男同士でイチャついてんなよ……迷惑なんだよ」
誰だかはわからないけど、それは棒倒しとは関係なく明らかに僕個人に対しての攻撃だった。
「待って……うっ……く……苦し………んっ」
喉を押さえ込まれてるから息も出来ないし声も出ない。背後からのしかかられている重みで体が沈んでいく。
「キモいんだよ……自粛しろ。調子に乗ってんなよ?」
ギリギリと首に絡まる腕が容赦無く締まっていく。苦しくて力が抜けていく。それよりも目の前の視野がぼやけていくのがわかり、それと同時に周りの喧騒が薄れていくのが怖かった。
苦しい……
息が出来ない……
このままだと意識が──
そう思った瞬間に体がスッと軽くなった。
ばらばらと集まっていた人達が、各々の陣地へと戻っていく。
あ……
一回戦目が終わったのか。
僕は気を失わずに済んだ事に安堵する。でもその場で呼吸を整えるので精一杯。足もガクガクしてしまって動かなかった。
その場でへたり込んでしまっている僕を見つけた真司君がすぐに抱き起こしてくれた。
「おい! 竜太無事か? 悪い! いつのまにか見失ってた。どこいたんだよお前……」
「………… 」
倒された棒をまた立て直し、息つく暇もなくニ回戦目を始める準備をする。
「竜太、顔色悪いぞ。怪我……はなさそうだけど、本当大丈夫か?」
肩で息をしながら真司君の腕にしがみついているもんだから、心配するのも無理もない。
「だ……大丈夫だから。ちょっと……疲れただけ」
今度は真司君から離れないようにしよう。
そのまますぐにニ回戦目が始まる。
また僕らはさっきと同じく中心部へと体を進めた。
首を絞められた感触がまた蘇ってくる。
……怖い。
だけど、さっきのあれは一体。
「なんなんだよ! 自粛しろ? そんなの僕の勝手だろ!」
体のあちこちに衝撃を受けながら、さっき言われたことを思い出し腹が立ってきてしまった。周りの怒鳴り声に感化され僕も思わずその場で怒鳴る。すぐ隣にいた真司君がそんな僕の声に気がつき、ギョッとしてこちらを振り向いた。
目が合った瞬間、真司君の目付きが変化した。
え……?
物凄い怖い顔をした真司君が、一気に僕との距離を詰めてくる。
その気迫に思わず僕は後ずさってしまった。
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