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暴力
何……?
「テメェ! 何やってんだよ!!」
真司君が飛びかかっていったのは、僕の後ろにいた人物。驚いて振り返ると、僕に向かって拳を振り上げていた同じ紅組の先輩の姿が見えた。
その先輩に鬼の形相で睨みつけられ、驚きと恐怖で体が強張る。
え……?
僕は何が起きたのかわからなかった。
僕の間に入りその先輩に向かっていった真司君が顔を殴られ横に倒れる。周りは各々棒を守ることに夢中だし、そこら中で乱闘してるから誰も僕らのことには目もくれない。
倒れた真司君のこめかみ辺りからは真っ赤な血が流れていた。
「真司君! ……え? 何で血が……」
え? え??
あの人味方だよね? ハチマキ紅いよね?
僕は頭が混乱する。同じ紅組の先輩に攻撃された?
「真司君! 血が出てる! 大丈夫⁉︎ 」
「竜太! 後ろっ! 危ねえっ!! 」
青い顔をした真司君の叫び声に驚き、それと同時に僕は肩を掴まれ、凄い力で振り向かされた。
「目障りだって言ってんだよ! ホモ野郎がっ!」
目の前にその先輩の拳が振りかざされる。
ここで僕はやっとわかった。この声は一回戦目で僕の首を絞めた人と同じ声。目の前に見えてる拳のその指には、大きくてゴツい指輪が何個も装着されていた。
「…っ! 竜太! 」
真司君の悲痛な声……
自分の顔に向かって振り下ろされる先輩の拳……
一瞬の出来事が、その時はスローモーションのように見えた。
殴られる……!
そう思って僕はグッと歯をくいしばり、目を瞑る。一瞬の出来事で、避ける余裕なんて僕には無かった。
「……?」
妙な間があき目をあけて見ると、僕の目の前に息を切らしている修斗さんの姿があった。僕を襲った先輩は修斗さんの足に踏まれて身動きが取れないでいる。
修斗さんは僕にニコッと笑いかけ、素早くその先輩に馬乗りになり顔面に頭突きをかまし、容赦なく殴り倒した。
ボー然とする中、真司君が顔から血を流しながら他の攻撃手から僕をかばってくれてるのに気がついて、慌てて僕も応戦する。非力な僕でも、めいいっぱい暴れて何とか攻撃をかわし、何とか真司君を助けながらその場を凌いだ。
結局紅組は最下位で、棒倒しは青組の勝利で終わった。
終わるとすぐに負傷者は救護テントへ向かう。血の出ているこめかみを押さえ辛そうな真司君に手を貸しながら、僕らも救護テントへ向かった。
「竜太君、大丈夫だった?」
後ろから追いかけてきてくれた修斗さんに声をかけられ、僕は大した怪我はないと伝える。
「さっきは助けてくれてありがとうございました」
修斗さんに助けてくれたお礼を言うと、途端に怖い顔になった。
「あいつ紅組だよな? 味方攻撃して……ってかあれ竜太君狙いだろ? 周がすぐ気がついたんだけど、周ってば日頃の行い悪いからさ、こういう時はここぞとばかりに狙われるんだよ。全然身動き取れそうになかったから俺が助けに入ったんだけどさ。もしかして一回戦目もあいつに何かされた? 本当に怪我はない?」
心配そうに僕を見る修斗さんにもう一度頷く。
僕なんかより、真司君だ……
「僕を庇った真司君が怪我しちゃって……」
テントに到着すると、既に沢山の人が手当てを受けていた。
高坂先生と入江君。
入江君は救護係らしく、忙しそうに動いていた。
テントの奥で周さんと康介の姿を見つけた。
周さんのことも心配だったけど、まずは真司君の怪我が先。
「先生……真司君見てください!」
振り返った先生はギョッとした顔で慌てて真司君の顔にガーゼを当てた。
「何だ君! こんな怪我して……えっと……ちょっと待っててな」
先生におもむろに水のボトルを渡され、僕は自分で膝の傷を洗ってパッドを貼っておくように言われる。あまりの興奮状態で自分が怪我をしていたことなど全然気が付いていなかった。
周さんもいつのまにか僕の隣に座っていて、手当てを手伝ってくれた。康介は修斗さんの側へ駆け寄り怪我の有無を確認していた。
「竜太……何もなくてよかった。修斗、ありがとな」
心底安心した顔で僕を見る周さん。
「あいつ紅組、味方だよな! あんなの指に付けて明らかに竜太君狙ってた。俺が間に合ったからよかったものの、あんなので殴られてたかと思うとゾッとするよ」
険しい顔で修斗さんが言うけど……僕を助けたおかげで真司君が殴られてしまったんだ。
「僕は大丈夫だけどかわりに真司君が……」
僕がそう言うと、周さんは黙って真司君の方へ歩いて行った。
「ありがとな……悪かったな」
「いや、俺が竜太を助けたかっただけだし。てかさ、橘先輩。そんな心配なら初めから竜太の方へ来るべきだったんじゃないっすか?」
挑発するような顔で周さんを睨みつける真司君。
「……そうだな。悪かった」
周さんはそんな真司君に言い返すこともなくそう言うと、静かにまた僕の方へと戻ってきた。
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