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差別

「竜太くんは大丈夫かな? 竜太くんがそれだけの怪我で済んで本当によかったよ」 先生がそう言って笑う。僕は複雑な気持ちでさっきの事を言いあぐねていると、突然座っていた椅子を誰かに蹴りつけられた。 危うく転げ落ちるところだ。そのくらいの勢い…… 「びっくりした……」 振り返ると、先程の先輩が僕のことを見下ろし睨みつけている。 「てめぇ! 」 すかさず周さんが飛びかかるも、修斗さんと先生に止められてしまった。 「何をするんだ? 今のはわざとだよね?」 先生が睨むとフンッと息を吐き捨て行ってしまい、周さんとケンカになる事はなかったけどあの先輩にされたことを思い出した僕は体が震えてしまった。 「先生さっきの奴、竜太の事だけ狙って殴りかかろうとしたんだ。指にバカでけえ指輪つけてさ……だから俺、殴られてこめかみ切っちまったんだよ」 真司君が先生に説明する。先生は驚いたような顔をして「わかった」と静かに頷いた。 「そう、君の傷はちょっと深いから一回病院でちゃんと診てもらわなきゃダメだ。後で僕が付き添うから、とりあえずここが落ち着くまでそこで静かに座ってなさい」 真司君は先生に言われた通り、奥の椅子に座った。 「先生……僕、一回戦目の時もあの先輩に首絞められた。目障りだ、自粛しろって言われて。なんなの? 意味わからないよ……」 首を絞められた恐怖を思い出し、僕は自分の首をゆっくりと摩る。 「は? 首絞められた?? 何だよそれ!」 真司君が声を上げ、周さんがまた「ぶっ殺す!」と言って立ち上がるのを修斗さんがしがみついてなんとか止めた。 「そうだったのか……竜太くん気分はどう? 怪我の他に具合悪いところはない? 怖い思いしたね」 複雑な表情で先生が僕の首を優しく摩ってくれた。 「僕、あの人に何か悪いことしましたか? 心当たりないんだけど……目障りとか自粛しろとか。そうだ、僕……ホモ野郎って言われた」 「………… 」 先生は難しい顔をして、そして悲しそうに溜め息を吐いた。 「……中には同性愛に対して酷い嫌悪感を抱く人もいるんだ。心で思ってるだけの人もいれば、ああやって理不尽に攻撃してくるような奴もいる」 「……? 僕は別に同性愛者じゃないですよ……ですよね?」 同性愛? 確かに同性の周さんのことが好きだけど、僕は今まで周さん以外の人を好きになったことがないから、よくわからなかった。 そもそも周さんと付き合うにあたって、同性という理由では少しは周りの目は気にはなるけど、自分自身に関しては気にもしていなかった。 「………… 」 僕はなんなんだろう── 「あ……うん、そうだね。そうなんだけど、異性愛者の人から見たら同性と付き合ってる時点でそう見えてしまってもしょうがない。それに橘より竜太くんの方が攻撃しやすかったってのもあるんじゃないかな」 先生の言葉に康介も腹を立てた様子で声を荒らげた。 「なんだよそれ、弱いものいじめと同じじゃねーか! ムカつくな!」 そう言うけど、弱いものとか言われて僕はあんまり気分がよくなかった。 「とりあえずさっきのは三年だな。どんな理由にせよ明らかに竜太君を傷つけようとした事には変わりないから後で担任にも報告して対処してもらうから。でも棒倒しは毎年無法地帯みたいなもんだからな……ああいうのは僕からも個人的に指導しないとダメだろうな」 溜め息混じりにそう言うと、先生は僕らの方を見てまた話を続けた。 「ここはさ、男子校っていう狭い世界で、さっきみたいな極端な例は少ないにしろ色んな奴がいる。自分のセクシャリティに悩んでる奴もいるだろうし、そんな奴を揶揄って楽しむような奴もいる。自然に認め合って仲良くできる奴もいれば、関わりたくないって思う奴だっているだろう。多種多様だからしょうがないけど、ああいう暴力的な差別はやっぱり悲しくなるな……橘は、まあ大丈夫だろうけど、竜太くんは気をつけて行動するように」 あんまりこういう事は言いたくないんだよな。 色んな奴がいて当たり前なのに── そう呟いた先生は、真司君の手当てと病院に向かう準備を始めた。

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