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意外な選択
入江君へのアプローチ合戦も去年の僕の時と違ってさほど目立った動きもなく、静かに一週間が過ぎた。
部活を終え、後片付けをしていると入江君に声をかけられる。
「先輩、俺……橘先輩指名するから。とりあえず渡瀬先輩には言っておいた方がいいかなって思って。さっき橘先輩には話してきました。一緒に写真部に行って金もらうんですよね?」
あ、周さんにしたんだ。
まぁ修斗さんでも周さんでも、どっちでも安心だもんね。
「そうだよ。ニ人で一緒に行ってお金受け取るんだよ」
僕はこれで気がかりがなくなってひと安心。
「橘先輩、まだいますよね? じゃあ俺これから行ってきます」
そう言って入江君は部室から出て行った。
「体育祭って毎年あんなくだらない事してるんですか?」
部室に残ったもう一人の一年生、工藤君が呆れたように僕に言う。
ほんとそうだよね……僕もそう思うよ。
「毎年恒例みたいだね。入江君大変だったんじゃない? この一週間」
そう聞くと、笑いながら工藤君も首を振った。
「全然! 最初は俺も気にして見てたけど、あいつ強いですよね。迫られる心配より、冷たくあしらったせいで逆恨みされんじゃないかってそっちの方が心配です……まぁ、それも見てるとやっぱりなさそうだし大丈夫じゃないかな?」
僕も帰りは周さんと一緒だから急いで片付けを済ませ下駄箱で待っていると、周さんと入江君が一緒に歩いてくるのが見えた。入江君は僕に気がつくとそのままペコリと頭を下げ、一人で帰って行った。
「………… 」
ただいま周さんの家で、修斗さんも康介も一緒──
「意外だよね……周も承諾したんだ」
修斗さんが驚いた様子で周さんに言う。
「………… 」
「入江の奴がデートしてみたいって言うしよ。でも俺には竜太がいるからって言ったら、別に付き合ってくれって言ってるわけじゃないし!って、それもそうだよな。デートって言い方すっからおかしいんだよな。竜太も陽介さんと遊んだろ? それと一緒だ。やましいことなんてねえし」
「なんで? やだっ!……僕は納得できません! やだ」
てっきり周さんと入江君は賭け金山分けして終わりかと思ってた。
修斗さんも康介もそう思ってたよね?
確かに去年は僕は陽介さんを指名して、一日一緒に出かけたけど……
そう、だから……デートじゃない。
そう自分に言い聞かせて、僕は嫌だったけど我慢した。「嫌だ! 嫌だ」と言っていつまでも駄々こねていたってしょうがないから。
周さんは僕がヤキモチを妬いてる様子が嬉しいみたいで、なんだかさっきからにこにこしている。
……それがまた少しイラっとした。
それにしても本当に何で入江君、周さんとデートしたいって思ったんだろう。
イライラもやもやしたまま僕が何も言えないでいると、康介が察してくれたのかそろそろ一緒に帰ろうと切り出してくれた。
「……僕、嫌だ」
「でもさ、別にやましい事なんかないし、周さんなら全然心配ねえだろ?」
薄暗い帰り道、康介が僕を宥めるように大丈夫だからと繰り返す。
僕は駄々をこねてる子どもみたいだ……
周さんが浮気するとかそういうことを思ってるんじゃない。僕じゃない人が周さんの隣を歩く、楽しくお喋りする、笑い合う……そういうことを想像するだけで、もやもやとしたもので体の中を埋め尽くされる、そんな気分になってしまうんだ。
「あー! やだやだ! もぉー!」
僕がそう吐き出すと、康介はクスクスと笑った。
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