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尾行

僕は今、直樹君と待ち合わせ中── なぜなら今日は周さんと入江君がデートをする日だから。 直樹君は入江君から事情を聞いたらしく、やっぱり憤慨しながらここにいる。そんな直樹君に誘われて、僕までこんな所にいるってわけ。 「全く! ただでさえそんなくだらない賭けに巻き込まれて不愉快だっていうのに……なんでまた周さんとデートなんて事になってんだよ。賞金山分けすりゃいい話なのに、周さんも周さんだよ。なにのこのこ祐飛とデートすんの?」 あまりにも直樹君が怒ってるから、僕は逆に怒りはおさまり、直樹君を宥める羽目になっていた。 「とりあえずさ、見つからないように尾行するんだよね? ……でも、やましいことなんて絶対ないから、それだけは信じてあげよ?」 僕が直樹君の肩を叩きながらそう言うと、やっと深呼吸して落ち着いてくれた。 「いいなぁ……俺も祐飛とデートしたいな」 「え? デートしたことないの? あんなに仲良いのに?」 なんだかんだ言ってもこのニ人は仲良しだから、休みの日とか一緒に遊んでるのかと思っていた。 「だって俺が誘わないと遊んでくんないし、一緒にいても楽しいんだかそうじゃないんだか……俺、嫌われたくないからあんま強引にもいけなくて」 直樹君が入江君の事を好きで好きでしょうがないのは見ていてよくわかる……明るくていつも元気な直樹君が自信なさそうにしているのが、なんだか少し気の毒に思えてしまった。 「嫌われるなんてこと、絶対ないと思うよ」 恋愛感情はさておき、入江君だって直樹君の事は大切に思ってるはず。 「……元気出して」 ニ人のことだから、僕があれこれ言うこともできず、なんだか切ないなって思いながら僕らは周さん達の姿を探した。 修斗さんが周さんに何時くらいからどこに行くつもりでいるのか教えてくれたから、こうして直樹君とここにいるわけで…… 「竜太君だって周さんのこと心配で俺の誘いにのったんでしょ? ねぇねぇ、違うの?」 「……そんなことないし! 僕もう帰ろうかな?」 揶揄われてムッとする。 僕は直樹君から尾行しようって誘われたからここにいるんだ。 ……別に心配だから、気になるからここにいるんじゃないもん。 クスクスっと笑われイラっとしながら直樹君の肘を小突き、僕らは並んで歩いていった。 「あ! 見てあれ。周さん発見!」 直樹君が指差す前方に、頭ひとつ飛び出した周さんを見つけた。 「あの人デカいからすぐわかるよね。ん? 祐飛の姿が見えない。隣にいるのかな?」 「一緒にいるでしょ……デートしてるんだから」 自分で言っておきながら「デート」という響きが嫌に感じた。 確かカラオケに行って買い物して、お茶してご飯を食べると言ってたはず。この先にはカラオケがあるから、きっと二人はカラオケに向かってるんだろうな。 ……個室にニ人っきり、か。 「直樹君、どうする? 周さん達カラオケ行くみたいだけど。一緒に入ると見つかりそうだし、出てくるまでそこのファーストフードでお茶でもしようか?」 「え? 祐飛がカラオケ? いや、それはねえだろ……祐飛ってカラオケ嫌いじゃねえの?……てか竜太君やけに行動詳しいっすね」 「修斗さんが教えてくれたの!」 一々言われることが気に触る。きっとヤキモチで苛々してるんだ。 「修斗さん? あの人周さんといいコンビ……あ! あれ? 周さんの恋人って……」 チラッとわざとらしく僕を見る直樹君を睨みつけ「恋人は僕だから!」と そう声を荒げると「竜太君やっぱり可愛い」と言ってまた笑われてしまった。

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