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大切な友達
顔を赤くして恥ずかしそうに入江が話し出した。
「……俺、直樹の事 好きなんですよ。あ、いや……好き? 自分でもよくわかってないとこもあるんだけど……大事な親友だと思ってて」
……?
「自分でよくわからないって? それって普通に好きなんじゃねえの? 違うの? 直樹の事大切なんだろ? 友達なんだろ?……それ悩むとこ?」
直樹が入江の事を特別に見てるのは見ていて一目瞭然。
別に直樹みたいに恋愛感情じゃなくたって好きか嫌いかでいいんじゃねえの?
「……直樹は俺の事を特別に見てるから、なんかそれに応えてやらなきゃって思うんです。嫌じゃないし、いや、好意はちゃんと嬉しいし……だから直樹が喜んでくれるようにたまには俺からも誘ってどっか行きたいなぁって思ったんです。でも……今更どんなとこ行ってどういう事すりゃいいのかわかんなくて」
「別にそんなの改まって考える事じゃねえよ。どこいこっか? で二人で決めりゃいいんだし。直樹だったらお前から誘った事実だけで舞い上がるほど嬉しいんじゃね?」
そこまで言うと、入江は少し顔を曇らせる。
俺、何かおかしな事言ったかな?
「……うん。そこなんですよ……俺、直樹の事好きだけど、そうやって直樹の言動に舞い上がるほど感情が沸き立つ事も特に無いし……だからそういう感情がよくわからなくって」
「………… 」
俺がバカなのかな、入江が言ってる事がよくわからない……
「お前と直樹は違うだろ? 自分の思うままでいいんじゃね? 別に直樹と同じ感情にならなくたって、あいつの事をちゃんと友達として好きなんだろ? 直樹の気持ちと同じにならなきゃいけないなんて事ねえし……そもそもそんなの無理だろ?」
「友達……として?」
友達として好きなのは確かだけど…
なんか入江がしっくりこない顔してるのがイライラする。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、入江は少しだけ俯いて、申し訳なさそうな顔になってしまった。
「友達と恋人の違いが俺にはわからないんです……おかしいですよね? ずっと側にいたいと思うし、大切にしたい、傷つけたくないって思うんです。でも……でも、直樹みたいに……その……手を繋ぎたいとか、キ……キスしたい……とか、そういう風な気持ちには俺、なれなくて」
いつもツンツンしてる入江が、なんだか言いにくそうに顔を赤くしてるのがちょっと可笑しい。いや、本人は真剣なんだから笑っちゃ悪いんだけど。
「……やっぱり橘先輩は、その……渡瀬先輩と一緒にいるときは、触れ合いたいとかキスしたい……とか、思うんですよね?」
上目遣いで少しおどおどした入江がボソッと話す。
超顔真っ赤……おもしれぇ。
「当たり前だろ……て、お前今まで誰かと付き合った事とかねえの? 好きな女とかいなかったん?」
付き合ってないにしろ、好きな奴がいたんならそんな直樹の気持ちもわかるだろうに。
「いや、付き合った人はいないです。でも好きかなって思う人はいたし、直樹の事も好きなんだけど、えっと……その……ムラムラするとか、そういうのが今まで全く無くて」
……ふ〜ん。
「あ〜、だから直樹にくっつかれたりイチャイチャされたりすると、お前嫌がるのか」
「いや、嫌だっていうか恥ずかしいっていうか……人前だし」
「………… 」
やっぱりこいつの言ってる事がよくわからなかった。
嫌なんじゃなくて恥ずかしいから?
本当はそういう事したいのかな?
俺が首を傾げると、入江は顔を赤くしたまま話を続けた。
「俺はそういう風にしたいとか思わないけど、直樹がそうしたいって言うんなら別にいいよって思うんです。嫌……ではないから。でもそんな中途半端な気持ちじゃ悪いかなって。前にあいつに冗談っぽくだけど、蛇の生殺しだって言われた事があって。ずっとそれが引っかかってて……」
そっか……
こいつは直樹の事気にしすぎなんだ。
「なぁ、お前はお前でいいと思うよ? 直樹だってそれを承知でお前にアプローチしてんだし。無理に直樹に合わせる事はねえ。そんな気を使うよりも自然に付き合ってやりゃいいじゃん。難しく考えんなよ。お前のしたいようにしろよ」
あ〜ぁ、こんな話してるから竜太に会いたくなってきた。
「入江ってさ、つっけんどんだけど優しいんだな。お前がそんな風に思ってるの直樹知ったら泣いて喜ぶぜきっと」
そう言って笑ったら、絶対に言うなと念を押され睨まれた。
そんな顔赤くして怖い顔したって全然怖くないけどな。
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