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ヒートアップ
なるべく目を合わせないように周さんに背中を向ける。直樹君と一緒にいるのも少しだけ罪悪感を感じながら僕は出口に向かった。
「おい! 待てよ。俺たちこれから飯食うんだけど付き合えよ……竜太?」
後ろから周さんが呼んでいる。
「………… 」
声が怒っているのがわかる。怖い声……でもなんで僕が怒られなきゃいけないの? 周さんだって僕が嫌だって言ったって入江君とデートしてるじゃん。
「……ねぇ、竜太君? 周さん呼んでる。戻りましょ?」
周さんの声に足を止めた僕の顔を直樹君が覗き込むようにして聞いてくる。
「竜太君?……さっきのパフェもまだ残ってるよ? ね、周さんのとこ戻ろう」
そうだ、直樹君だってせっかく入江君と会えたんだもん。一緒にいたいよね。
「うん……ごめん。そうだね、行こう」
周さんと顔を合わせたくなかったけど、僕はまたテーブルに戻った。
「……まさか直樹と一緒だったとは思わなかった。さっき寄った店で渡瀬先輩、窓から見えたんですよ」
入江君が僕に話しかけてくる。
「………… 」
どう返したらいいのか……焼きもち妬いてるのがバレバレなんじゃないかって、恥ずかしくていたたまれなかった。
周さんも僕の方をあまり見てくれないし、全然喋らない。
「また直樹が無理言って先輩付き合わせたんじゃないの?……おい直樹、聞いてる?」
入江君が僕の方を気にかけながら、直樹君に問い詰めた。
違うよ、無理に付き合わされたんじゃないし……
「あ、あ……うん、そう……俺が祐飛の事気になって気になって、竜太君にお願いしてついてきてもらった。だから、周さん? 竜太君は悪くないから」
おどおどしながら周さんの方を向き事情を説明する直樹君。
「あ?……別に俺は竜太が悪いなんてひと言も言ってねえよ?」
「だって周さん怒ってんじゃん、怖い顔して。竜太君責めてるみたいに見えますよ!」
「うるせえな! 俺は元からこんな顔なんだよ! 怒ってねーし、てかお前が竜太と二人でいるのが生意気なんだよ!」
「 ………… 」
「はぁ? 言ってることおかしい! なんで俺が竜太君といるだけで生意気なんだよ! ムカつくな……やっぱり竜太君、帰ろ! 竜太君元気ないの周さんのせいだからね! ほら……竜太君行きましょ!」
直樹君はそう言って立ち上がると、僕の腕を掴んで進もうとした。
「ざけんなよ! 何でテメーと竜太が帰るんだ? あ?」
周さんも立ち上がり、大きな声を出して直樹君を睨む。
「………… 」
「あーー! お前らうるさい! ちょっといい加減にしてください! 何で橘先輩と直樹でヒートアップしてるんですか? 周りの迷惑です! ほら、橘先輩も直樹も座れって!」
ピシャリと入江君が一喝し、周さんと直樹君は静かになった。
周さんと直樹君が揉めてる間、僕は残った苺をフォークで突きながらぼんやりと聞いていた。
周さんと入江君が食事を始め、直樹君は入江君が嫌いで避けてる野菜なんかをパクパクと横からつまんで食べている。
周さんは横に座る僕の事を気にかける様子もなく、黙々とオムライスを口に運んでいた。
やっぱり帰ればよかった。
なんだよ……一緒にいたって僕の方を見もしない。
やっぱりムカつく。
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