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許してなんかあげない
「………… 」
機嫌を直すきっかけをつかめないまま黙ったままの僕と、同じように不機嫌丸出しな顔の周さんを、入江君と直樹君はチラチラと見た。
「……橘先輩、お腹いっぱいになったし、俺はそろそろ行きますね。今日は色々ありがとうございました。助かりました」
すっかり食べ終わった入江君が周さんの方を見てお礼を言った。周さんは表情を変えずに「んっ」と小さく頷くと手をひらひらとさせる。
「ほら、直樹行くよ。あ……あのさ、俺、本屋行きたいんだけどいい? ちょっと付き合ってよ。そのあとも…… 」
少しだけ言いにくそうに直樹君にそう話す入江君。
キョトンとした顔から一気にパアッと明るくなった直樹君がもう嬉しそうで嬉しそうで、見ていて僕まで笑顔になった。
僕に向かって満面の笑みで手をぶんぶん振りながら帰っていく直樹君と、苦笑いな入江君を見送ると、とうとう周さんと二人きりになってしまった。
気まずい──
さっきまで直樹君達と向かい合って座っていたから、二人がいなくなった今は不自然に周さんと二人並んで座っている。二人なのに並んで座ってるのがおかしいと思ったから、周さんの向かいに座ろうと僕は席を立った。
「おい……どこいくんだ?」
咄嗟に手首を掴まれ、結構な力で引っ張られる。
「……痛い、席移動するだけですよ……触らないでくださいっ」
手首を掴み僕を見上げる周さんの顔がやっぱり不機嫌そうで、ムッとしながら、少し大げさにその手を払った。
「………… 」
目をそらし向かいに座ると、周さんがテーブルに身を乗り出すように顔を近づける。
「……なぁ、竜太。怒ってる?」
不機嫌な顔が一転して優しい顔になる。小声で僕の目を見つめながらそう聞いてきたけど、引っこみがつかなくなってる僕は相変わらずな態度をとってしまった。
「怒ってるっ!」
プイッと横を向き僕も小声でそう言うとテーブルの上で手を握られた。
「……なんで?」
「………… 」
周さんは首を傾げて少し不思議そうな顔をする。僕が不機嫌な理由が周さんにはわからないんだ……それとも僕が焼きもち妬いてるのを面白がってる?
「もういいです!……僕に触らないでください!」
掴まれていた手を周さんから離すと、席を立ち出口へ向かった。
「ちょっ……待てって、竜太っ!」
後ろから慌てて周さんが会計を済ませて走ってくる。
店を出て、僕はできるだけ早く歩いたけどすぐに追いつかれてしまった。
また腕を掴まれ引き止められる。
「なんだよ、先行くなよ……」
「だから! 僕に触らないでください」
ぶんぶんと手を振り、掴んでいる腕から僕は逃げた。
「……なぁ、そんなに怒るなってば。ごめんな。竜太、機嫌直してよ」
「………… 」
僕が怒ってる理由なんて、結局のところ単なるやきもち。
周さんはもしかしたらそれがわかってて楽しんでるのかもしれない。だって僕が入江君とデートするの嫌だと言っていた時、周さんは嬉しそうに笑ってたんだ。
余裕ないのは僕だけなんて癪だし、まだ許してなんてあげない。
僕の歩幅に合わせて周さんが僕の横を歩く。
「竜太、笑ってよ……なんでそんなに怒ってんだよ。どうしたん?」
僕がさっき触るなって強く言ったからか、いつもより少しだけ離れて周さんは歩いてる。
「………… 」
「入江との用事が済んだらケーキ買って竜太に会いに行こうと思ってたんだけどさ、ケーキ……これから買いに行く? あ、さっきデカいパフェ食ってたから、もう甘いのいらねえか……」
周さんが僕にケーキを? 後から僕に会おうと思ってくれていたの?
「……食べる」
「へ?」
「……食べます! ケーキ」
周さんの方を見もせずにそう言うと「そっか……」と嬉しそうな周さんの声が聞こえた。
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