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竜太はご機嫌斜め

竜太がめっちゃ怒ってる…… まさか入江と一緒の時に竜太とばったり会うなんて思ってもいなかったし、竜太と直樹が一緒にいる事がとにかく俺は気に入らなかった。 入江と昼飯を食うのに入ったファミレスで、目に飛び込んできたのは直樹に何かを食わせてもらってる竜太の後ろ姿。 あれ、バカっぽいカップルなんかがやる「あ〜ん」ってやつだろ? いや、俺もたまにやるけどさ…… なんで竜太と直樹がそれをやってんだよ。 すぐ後ろに行くまで俺の事に気がつかねえしさ。 イラつくなって言われてもそりゃ無理だろ。 竜太の俺に対する態度もいつもと違う。直樹にまで突っかかられるし。 なんなんだよ……イライラする。 怒りたいのは俺の方なんだけど? ムスッとした竜太の顔も見ずに、こいつら二人、早く帰んねえかなって思いながら昼飯を食べる。竜太も二人きりになればきっといつもの優しい顔に戻って俺に謝ってくるだろう……って、そう思ってたんだけど現実は違ってた。 あいつらが帰ってからはもっと酷くなって、しまいには「触るな!」なんて言われてしまった。 ……は? 何なの? 凄えショックなんだけど。 ご機嫌斜めな竜太に笑ってほしくて、何とかしたくて、俺のイライラはいつの間にかどこかに消えていた。 なるべく穏やかに優しく問いかけてみるも、物凄い形相で「怒ってるっ!」って返事だけ……そのままプイッと横を向かれてしまった。 「………… 」 正直言って、ここまで竜太が怒ってる理由が俺にはわからなかった。 あれ? でもやっぱりやきもち妬いて怒ってるのかな? だとしたらちょっと嬉しいかも。そんな風に思ったら、竜太が怒っているのが可愛く思えてしょうがなかった。 「……なんで?」 やきもちを確認したくて、なんで怒ってるのか聞いてみる。 そんなに俺の事に夢中なのかと勝手に嬉しくなり、調子に乗ってテーブルの上で手を握ってしまった。 「もういいです!……僕に触らないでください!」 俺の手をパッと払い、立ち上がったと思ったら竜太はさっさと店から出て行ってしまった。 ……マジかよ? 慌てて俺も会計を済ませて、竜太を追いかける。 店を出たら、前方にぷりぷり歩いてる竜太の姿。もう体全体で「怒ってます」のオーラが出ている。 でもやっぱり可愛い…… 本人はぷりぷり怒ってずんずん進んでるつもりなんだろうけど、歩くのが遅いからあっという間に追いついてしまった。 「なんだよ、先行くなよ……」 前を歩く竜太の腕を捕まえる。 瞬間、思いっきり手を振り払われた。 「だから! 僕に触らないでください」 はっきり言って、ここまで怒る意味がわからない。今までだって些細な喧嘩はした事があった。それでもこんなに拗れていることなんて、俺の記憶している中では一度もなかった。 「……なぁ、そんなに怒るなってば。ごめんな。竜太、機嫌直してよ」 「………… 」 多分引っ込みつかなくなってんだろうな。 俺が入江とデートするのも凄い嫌がってたし、もしかしたら俺みたいにこっそり後をつけてきてたのかもしれない。それを恥じて、こうまでして不機嫌になっているのかもしれないと思ったら、俺は幾分冷静になれた。 少しだけ竜太から離れ、並んで歩く。 「竜太、笑ってよ……なんでそんなに怒ってんだよ。どうしたん?」 「………… 」 まだ黙って怒っている竜太だけど、こいつの機嫌を直す最後の手段…… 多分これで竜太も笑顔になれるはず。 「入江との用事が済んだらケーキ買って竜太に会いに行こうと思ってたんだけどさ、ケーキ……これから買いに行く? あ、さっきデカいパフェ食ってたから、もう甘いのいらねえか……」 最後の手段、でもこれは本当にそうするつもりだったから嘘じゃない。 入江と一緒に過ごしていて、ずっと竜太の顔がちらついていた。早く喜ぶ顔が見たくて、入江と別れたらすぐにケーキを買って帰ろうと考えていたんだ。 「……食べる」 ちょっと考え込む顔をしてから、竜太の口から小さな返事。 「へ?」 「……食べます! ケーキ」 俺の方は見てくれなかったけど、竜太の機嫌が少しだけ戻ったと思った俺は嬉しくて心の中で「よっしゃ!」と拳を握った。 結局のところ竜太の機嫌はちっとも戻っていなかったみたいだけどな──

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