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お持ち帰り
下校時に竜太と立ち寄るいつものケーキ屋。ショーケースの前でムスッとした竜太がケーキを選んでいる。
……ケーキを前にしてこの仏頂面。こんな顔、初めて見る。
「どれにする? 俺は今日はいいや」
「………… 」
機嫌、よくなったと思ったんだけどな。
「僕、紅茶のシフォンケーキにします」
竜太が目の前の店員にボソッとそう言うと、店内でお召し上がりですか?と聞かれた。チラッと俺の顔を見てから、店員に向かって首を振る竜太。
「いえ……持ち帰ります」
「……?」
あれ? ここで食ってかないのかな? もしかして早く二人きりになりたいのかな?
「食ってかないの?……じゃぁ俺んち行く?」
俺がそう聞くと、ツンと口を尖らせたまま竜太は頷いた。「もう帰る」なんて言われるかも、と少し不安だったけどそうじゃなくて良かった。
竜太の分のシフォンケーキを一つだけ買い、二人で俺の家に向かった。
相変わらず俺から少し離れて竜太は黙って歩いてる。
「竜太、いつまでそうやって怒ってんの?……ねぇ笑ってよ」
さっきからチラッと恨めしそうに俺の顔を見ては、プイッと顔を逸らすの繰り返し……ちょっとうんざりもしてきたけど、やっぱり可愛いからつい揶揄いたくなってしまう。
プクッと膨れてる竜太のほっぺをツンと突いたら、鼻まで膨らませて凄い形相で俺の方を振り返った。
「何するんですか! もう! 触らないでください!」
自分の頬を手で擦り擦りしながら怒った顔がおかしくて可愛くて思わず笑っていると、ある事に気がついた。
まじかよ……タイミング悪すぎかよ。
「ごめん……竜太。今日お袋いるわ。お袋、夜出勤だって言ってたから、多分今頃寝てると思う。どうする?」
「………… 」
まただんまり。
そうだ!
「じゃあさ……ホテル行く? 今の時間ならサービスタイムだしのんびり出来るよ?」
竜太の耳元で小声でそう伝えると、何かハッとした顔をしてからニッと笑い、俺の顔を見て「うん」と頷いた。
……??
今の何だ?
何か、閃いた!……的な顔したぞ?
竜太の一瞬の表情が気になったけど、とりあえず今やっと固かった表情が柔らかくなってきたので、その事に突っ込むことはせず駅の方へと向かった。
「竜太君?……ケーキ、俺が持とうか? そんなにぷりぷり歩いてるとケーキ崩れちゃうよ? ほら、ほっぺも膨れすぎて可愛い顔が台無しだよ」
俺は竜太とホテルに行けるのが嬉しくて、機嫌よく竜太に話しかける。
それでもさっきの一瞬の笑顔が嘘のように、またツンと睨まれてしまった。
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