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ムカつくんです!
ホテルの部屋に入ると竜太はそそくさと奥に進み、備え付けの小さなテーブルの上にケーキを置いた。
無言でポットを取り出し、お茶を入れる支度をしている。
「………… 」
電気ポットのスイッチを入れると、今度はバスルームに行き風呂の準備を始めた。
……その間沈黙。
俺の事をまるでここにいないかの様に無視をして、竜太は一人で黙々と行動をしていた。敢えてなにも言わずソファに座り様子を眺めていると、バスルームから戻った竜太が俺の前を通り過ぎようとする。目も合わせようとしない竜太の腕を掴み、俺はグッと自分の胸に抱き寄せた。
バランスを崩した竜太は俺の思惑通り胸に飛び込んでくる。そのまま俺は竜太を抱きしめ耳を軽く食んだ。
「あっ…… んっ」
可愛い吐息が聞こえてきたから、そのまま俺は竜太の頬に手を添えて自分の方を向かせた。
「……竜太?」
さっきまでツンと尖らせていたその可愛い唇にキスをしようと顔を近づけると、パッと目の前に竜太の手のひら。
「……?」
「……ダメです! 僕に触らないでください! 離してください!」
これでもかって力で、竜太は俺の顔を手のひら全体で押してくる。
「痛っ!……おい、竜太……痛いってそれ!」
「僕は! 怒ってるんです! さっさと離れて!」
訳が分からず顔面を押し戻され、竜太の手が離れると目の前に見えたのは耳まで真っ赤にした竜太だった。
「周さん……僕が怒ってる理由、わかってないですよね?」
「……うん」
いや、多分やきもち妬かれてるんだとは思うんだけど……竜太をここまで拗らせてる理由は、わからなかった。
「……周さんが僕じゃない人に優しい顔するのが嫌なんです」
「うん……」
「僕、入江君とのデート嫌だって言ったのに……」
「うん」
だからそれさ、単にやきもちだよな? だって俺、普通に入江と接してたぞ? やましいことなんか絶対してない。ずっと見られてたとしても、それだけは自信ある……
「……竜太も去年、陽介さんとデートしたよな? 俺だって嫌だったぞ?」
「そうだけど! ……でも、でも……周さんは僕だけのなんです!」
目に涙をためて怒ってる竜太が子どもみたいだ。
取られたおもちゃを返して欲しくて頑張ってる……みたいな?
やきもちを妬かれれば妬かれるほど、俺の事をいっぱい好きって言ってくれてるようで、嬉しくなってきてしまう。
「そうそれ! その顔! ねぇ……周さん? 僕がやきもち妬いてるの嬉しいんでしょ。さっきから僕のこと見て楽しんでるでしょ? ……それが凄く嫌なんです! 僕ばっかり……僕ばっかり余裕がないみたいで……ムカつくんですっ!」
急に俺の顔を指差して憤怒する竜太に唖然としていると、パッと俺のそばから離れた竜太が更に続けた。
「今日はもう、周さんは僕に触らないでください!……触らせませんからね! 絶対に許してあげないんだから!」
「………… 」
……だから何でそんなに怒ってるんだよ。
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