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面倒臭い

周さんは僕が怒ってる理由はきっとわかっていない── 単なるやきもち。 そんなの僕だってわかってる。 でも、周さんは入江君とデートする前から僕がやきもちを妬いてるのがわかってて喜んでいた。僕が嫌な気持ちになるたびに、これ以上ないくらい嬉しそうな表情をする。 周さんはわかりやすいから…… そんな態度に僕はイラっとしてしまった。 僕が怒れば怒るほど「やれやれ、全く……」といった具合に、バカにされてるように感じてしまう。 ……周さんに限ってそんな事ないってわかってるのに。 僕はもう引っ込みがつかなくなってしまった。 ごめんなさい。 このままだときっと呆れられちゃう。 でも、僕がこんなに嫌なんだって事、どうしてもわかってほしかった。わかった上で、ごめんねって優しくしてほしかったんだ。 僕って面倒臭いな…… ケーキを買ってホテルに行く。 入江君とデートしている間も僕の事を考えてケーキを買うつもりだったと言ってくれた。 凄く嬉しい。 でも引っ込みがつかなくなってて素直にはなれなかった。 周さんたらへらへらと嬉しそうな顔しちゃってさ、僕がすぐに許すと思ってるのが見え見えで、やっぱり意地悪したくなっちゃう。 「お仕置き」と称して、僕は周さんに触れられないように徹底的に避けることにした。 多分周さんは僕といちゃいちゃしたいんだろう。でも絶対に触らせてあげないんだ。 触りたいのに触れない……これならきっと周さんは辛いよね? 何度も「許して」と言ってくる周さんと喋れば喋るほど、思ってもない言葉が出てきてしまい、とうとう「いい加減にしろ!」と少し強い口調で怒鳴られてしまった。 悲しくて悔しくて言い返せないでいると、周さんはそっとベッドに上がり僕に近づいてくる。 「ほら……竜太、抱かせろよ」 怖い目。周さん怒ってる…… 「竜太……」 当たり前のように僕を抱きしめようとする周さんの手を僕は叩く。 「ダメです! 触らせないって言ったでしょ! エッチなこともさせませんっ!」 いつでも僕が言う事を聞くと思ったら大間違いだ。 僕だって怒るときは怒るんだから…… 僕は怒ってる周さんに対して声を荒げてしまった事にドキドキしながら、逃げるようにしてバスルームに向かった。 シャワーを浴びて、体を綺麗にする。 バスタブに浸かり周さんの事を考えた。 入江君と一緒にいた時の周さんが凄く優しそうな顔に見えたのはきっと気のせい……僕が嫉妬の目で見ていたからそういう風に見えてしまっただけ。 周さんは下心なんてなく、友人として普通に接していただけなのにね。 周さんは怖そうに見えても、実際は仲良くなった人にはとても優しい。 強い口調でもそれは相手を思っての事。裏表なくて思った事をまっすぐぶつけられるような人だから、僕に後ろめたい事なんてするわけがないのに…… やきもち妬いてイライラと怒ってたせいで周さんに触れられてない。それは僕が拒んでいたからなんだけどさ、僕だって周さんといちゃいちゃしたいんだ。 本当はさっきの、このタイミングで僕が素直に謝ればよかった。周さんに抱きついて「ごめんなさい」と言えればよかったのに。 へんな意地を張っていつまでも怒ってるってアピールしてしまったお陰で、あんな恥ずかしい思いをする事になるなんて。 僕は何てバカだったんだろう──

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