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成績
去年から始めた喫茶店でのアルバイトを、今月いっぱいで辞めることにした。今でもバイトを続けているバイトリーダーの陽介さんにもそう話をしたら、寂しいと言われてしまった。
まぁ、週に一、二回くらいしか僕は働いていなかったんだけど、もうちょっと勉強の方も頑張らないと、と思って……
アルバイトもいい経験。でも僕は色んなことを器用にこなすことはできないから、やっぱり辞めるのが一番いいんだと思う。
周さんと付き合うようになり友達も沢山できた僕は、きっと勉強を疎かにしちゃってたんだ。少しずつ下がっていた成績を見て、とうとう母さんに怒られてしまった。
「別にね、お友達と過ごすことも大切な事だし、大好きな人と一緒にいたいっていう気持ちはすごくわかるの。でもね……ここまで成績下がっちゃうとね、心配なのよ。だから…… 」
この日は父さんも帰宅していて、父さんからも同じことを言われていた。そして母さんに見せられたこのパンフレット。
「え……? 家庭教師?」
「そう、来年はもう受験生なんだし……のんびりもしていられないでしょ? 塾でもいいとは思うんだけど、ちょっと遠いいし。あなたの帰りもまちまちだから。お家で出来る方が楽だと思って。ほらそれに、金額も塾とそんなに変わらないのよ」
母さんはもう既に父さんと相談した上で僕に話をしているんだと思う。特に嫌という理由もないし、僕はそのパンフレットを眺めながら黙って母さんの話を聞いていた。
母さんの中ではもう家庭教師を雇うことは決まっているようで、先生は男がいいのか女がいいのかを僕に確認してくる。
へぇ、選べるんだ……
「……ん、あ〜女の人がいいかな」
何となく知らない男の人と部屋で二人きりになるのが怖くて、僕は女の先生でお願いした。
「わかったわ、了解。近いうちに申し込みしておくわね」
次の日学校で休み時間に康介とお喋り。
陽介さんからバイトを辞めることを聞かされたらしく、どうしたのか康介に聞かれてしまった。
「成績がね、下がったから家庭教師を雇うって言われちゃったの」
僕がそう言うと、目を丸くして驚くから笑っちゃう。
「なに? そんなに驚くこと? だって来年は受験生だし、そろそろちゃんと勉強しておかないと……」
「お……おぅ。そ……そうだよな。うん、受験かぁ……俺、何も考えてねえや。俺も頑張んねえとやばいかな……」
少しだけ焦った様子の康介に、まずは赤点は取らないようにしないとねって話をしたら「無理!」って即答されてしまった。
「……あれ? 志音じゃね?」
廊下の窓から外を眺めていた康介が下を覗き込む。
「今来たのかな? そういやあいつ見るの久しぶりかも……」
志音は文化祭や体育祭くらいまでは欠席も少なく学校に来ていたけど、ここのところ、いるんだかいないんだかわからない日が多かった。
「今来たとしても、もう終わりだよね。お仕事忙しいのかな?」
第二校舎に入っていく志音の後ろ姿が心なしか元気がないように見えて、少し心配になった。
「でもさ、志音なんで第二校舎?」
康介が首を傾げる。
確かに康介の言う通り、僕らの学年や保健室は第一校舎。
「……職員室?」
どうしたんだろうね……と康介と話していたけど、結局放課後まで志音が教室に顔を出すことはなかった。
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