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家庭教師
今日は部活後、周さんと下駄箱で待ち合わせ一緒に帰る。
ちょっと久しぶりだから嬉しい……
周さんはバイトを頑張ってやっているから、放課後一緒にいられる事が少ないんだ。僕が無意識に左手のリングを触っていたら「なんだかそれ照れるから……」と恥ずかしそうな周さんが可愛かった。
「今日はどこ寄る?」
歩きながら僕の顔を覗き込む周さん。
「あ……ごめんなさい。今日はちょっと予定があるんです」
せっかく周さんと一緒にいられるのに、ごめんなさい。
でもしょうがないよね。
予定は何だ? と聞いてくる周さんに僕は簡単に説明をした。
「今日は家庭教師の人が来て、一応面接があるんです。僕ね、成績下がっちゃって。だからバイトもやめたんです。来年は受験生だし頑張らないとって……」
「………… 」
周さんたら、ぽかんとしてる。
「周さん……?」
「竜太凄えな、頭いいのに更に家庭教師もかよ!」
いや、凄くないから家庭教師に頼んでまで勉強するんだけどね。
でも、そういえば周さんは卒業したらどうするんだろう? 正直勉強してるようには見えないし。
「あの、周さんは受験勉強とかってどうしてるんですか?」
疑問に思ったから聞いてみたんだけど、やっぱり僕の顔を見てポカンとしている。
「いや、受験勉強って……それはねえだろ? 俺は今のままだぞ。修斗と靖史さんとバンド活動やりつつ……バイトだな。あ、そういや最近な、靖史さんちの酒屋も手伝ってんだ俺」
そうだよ、圭さんを待ってるって言ってたもんね。
俺は夢中になれる事じゃないと頑張れないから……なんて言ってた周さん。周さんらしくて笑っちゃった。
周さんに家まで送ってもらい、部屋に入る。もう少ししたら家庭教師がくる予定だ。
なんか緊張しちゃうな。
母さんは既に一度会っているらしくて、優しそうで気さくな雰囲気の人だから大丈夫よ……なんて言ってくれたけど、やっぱり初めましての人はドキドキする。
僕はそわそわしながら部屋で家庭教師がくるのを待った。
家の呼び鈴が鳴り、母さんが出る。玄関先から和やかな話し声が聞こえ、母さんの元気な声が二階まで届いた。
「竜太、先生いらしたから早く下りてらっしゃい」
リビングに入ると、僕とさほど歳も違わないような若い女の人が、にっこりと笑いかけてきた。
「初めまして。竜太君……でいいかな?」
僕はかなり年配の方が来るのかと思い込んでいたから、イメージが違ってちょっと動揺する。
「竜太君……?」
「あ! ……あ……すみません。竜太です。あの……よろしくお願いします」
オドオドしてしまった僕の様子がおかしかったのかクスッと笑われてしまった。
「私は池之内 碧 です。よろしくね」
母さんも交え少し話をした。
学校での様子、帰宅時間、苦手な科目、今までの勉強の仕方や志望校など……
ひと通り話した後は、前回のテストの答案用紙も見たいと、二人で僕の部屋へ移動した。
話せば話すほど気さくで優しく話しやすい人だとわかり、僕の緊張ももうすっかりなくなっていた。
「う〜ん、竜太君ちゃんと勉強できてるよね? テストの点数も問題ないと思うよ。ま、先ずは苦手なところを重点的にやって力をつけてこうね」
「……はい」
テストの確認を簡単に済ませた後は、少しだけ雑談をした。
きっと僕が気負わずにコミュニケーションが取れるように配慮して、この時間を設けてくれてるんだろう。
短い時間だったけど、僕はもうすっかり碧先生と打ち解ける事ができ、一回目の授業が楽しみになっていた。
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