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代理
その日の部活動──
僕は一年生の入江君と工藤君の側でデッサンをする。もう二人ともだいぶ慣れた様子で、各々好きなように作品に取り掛かっていた。
ちょっと工藤君はお喋りに夢中だけどね、でもきちんと口も手も動いているから関心してしまう。
しばらくすると、窓の外に周さんの姿が見えた。一緒に帰るとき、こうやって迎えに来てくれる事がある。時計を見ると、そろそろ終わりの時間。二人に声をかけようかと思った途端、周さん達のファンだと言う工藤君が気が付き、大きな声を上げた。
「あー! 先輩っ! 橘先輩だっ!」
嬉しそうに立ち上がり、窓の方へと走る。
工藤君に気が付いた周さんは苦笑い……
「じゃ、そろそろ時間だから片付けよう……え? ちょっとどうしたの?」
僕は片付けを始めようと入江君の方を見ると、指先を押さえて辛そうな顔をしていた。指の間からは鮮血が滴っている。
「急に工藤がデケェ声出すから……手元狂った。クソッ……」
入江君の声に工藤君が振り返り、その様子を見てギョッとする。
「祐飛どうした? え? ……ゴメン! 俺のせいか! 止血! 止血!」
どうやらカッターを使って鉛筆を削っていて、手元を狂わせ切ってしまったらしい。
「僕が入江君を保健室連れて行くから、工藤君はごめん、そこを片付けてから外にいる周さんに待っててって伝えておいてもらっていいかな?」
そう頼んでから、入江君を連れて僕は保健室へ向かった。
「めっちゃ痛え……切ったっていうより肉削いじまった感じ」
「……やだ! ゔぅ……痛そう。大丈夫?」
部室にあったティッシュで押さえてはいるものの、どんどん血が滲んできて見てるだけで痛そうで顔が歪む。二人で早歩きで廊下を歩き、保健室に入った。
「高坂先生、入江君が部活で指切っちゃって……」
いつも先生が座っている場所を見ると、そこにいたのは高坂先生ではなく知らない人だった。
「どうした? 早くこっちおいで。見せてみろ」
少し怖そうな雰囲気の男の人。でも高坂先生みたいにちゃんと白衣を着ていた。
え?……高坂先生はどうしたの?
驚きつつも、入江君は言う通りにその人のところへ行き指先を見せた。
手際よく手当てをし、じきに出血も止まるから大丈夫と笑顔を見せる。最初見た怖そうな雰囲気がなくなり、笑顔になったのでちょっとホッとした。
「あの……高坂先生はどうされたんですか?」
思い切って聞いてみると、その人から笑顔が消えた。
「高坂先生は、体調を崩されてしばらくお休みになったんだ……俺は代理ね。昨日からここに居るんだよ、よろしくね」
え? 体調を崩したって……
「え! 体調不良ってどうしたんですか? 大丈夫なんですか?」
思わず心配で声を荒らげてしまった。
「詳しくは聞いてないけどね、そんな心配する事はないと思うよ。じきに戻ると思うし……さ、もう遅いから帰った帰った」
「………… 」
最近志音とも全然会えてないし、どうしたんだろう。
代理の先生に保健室を追い出され、僕は周さんのところへと走った。
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