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志音宛のファンレター

二学期になり、今年は文化祭も体育祭も参加できた。 昨年以上に学校も楽しくて充実している。竜太君を始め、俺にも気安く話すことができる友達がちゃんとできた。自然に笑えるようになったし、先生も俺の表情が豊かになったと喜んでくれている。 仕事ももらえて学校も勉強も楽しい。 先生とも些細な喧嘩はたまにはするけど、仲良く一緒の時間を過ごせていた。 俺は愛されてるんだって自信が持てるように、大事に大事にされてるのが先生からちゃんと伝わっていたし俺もそれ以上に先生のことを愛してた。 凄い幸せ。 凄い幸せだったはずなのに…… ちゃんと俺が大切なことを伝えていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。 もう何もしたくない。 このまま消えてしまえば楽になるのかな…… 気がつけばこんなことばかり考えてしまう。 学校だってもう辞めてしまいたかった。 仕事もできるし、学校なんて別に行かなくてもいいと思った。でも真雪さんにそう言ったら思いっきり引っ叩かれてしまった。 「生意気に逃げることばっか考えてんじゃないわよ! 高校はちゃんと卒業しなさい!……その方が気がまぎれるんじゃないの? しっかりしなさい……」 真雪さんにも酷く心配をかけてしまってるのはわかる。厳しい口調で叱咤するのは俺に対する愛情だ。いつまでも調子の上がらない俺に、真雪さんは仕事を可能な所から減らしてくれた。 ……ごめんなさい。もう俺は何をしたって気がまぎれる事なんてないと思う。 ちょうど体育祭が終わったあたりのこと── 学校が終わったらすぐに事務所に向かうはずが、校門の前に既に真雪さんが迎えに来てくれていた。 「あれ? どうしたの? 俺遅かった?」 心配になり時計を見てみたけど、別にいつもと一緒の時間だし遅刻ではない。 「あ……ちょっとね。とりあえず早く乗って。車の中で話すわ……」 なんだか珍しく深刻な顔をしてるから不安になった。 車に乗り込み、緊張して真雪さんの顔を見る。 「……何事?」 「ん~、あんま気にすることはないとは思うんだけど……ちょっとね。あなた宛のファンレターに少し引っかかるのがあって」 事務所に届く手紙や小包などは、一旦真雪さん達が開封してチェックしてくれている。 「どんなの?」 「……持ってきた。見てみる?」 運転しながらスッと差し出されたピンク色の封筒。俺は緊張しながら中身を開いた。 「………… 」 恋人気取りの気持ち悪い内容だったり、ストーカーじみた内容だったり、そういった手紙は今まで何度か受け取った事がある。 でも今回真雪さんが警戒した手紙はこの類とはちょっと違っていた。 ピンク色の封筒。 可愛らしい字で封筒と同じ色の便箋一枚に綴られていた言葉。 俺に対して「頑張ってください」という意味合いのよくある文章が綴られている。他のファンレターとさほど変わらない内容だったが締めくくりの最後の文…… 『あまり調子に乗ってると痛い目見ますよ。気をつけてくださいね。いつも見守ってます』 「………… 」 何度も読み直し、首を傾げる。 「真雪さんさぁ、これって何なんだろうね……俺の事、褒めてくれてるのかと思ったけど、違うよね? いつも見守ってますってさ、ストーカー?……痛い目見るって、俺もしかして脅されてる?」 手紙を真雪さんに渡しながらそう聞くと「それなのよね……」と真雪さんも困惑したように首を傾げた。 「やっぱりね、用心に越したことはないから……しばらくは様子見ながら送迎するから。マンションも気を付けてね」 「はぁ~い」 何をどう気をつけたらいいのやら、適当に返事をして俺はその日もいつも通り仕事を終わらせた。

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