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入院と謹慎
「……へ? 何?」
あっという間の出来事で、理解するのに時間がかかった。
「陸……也さん?」
階段の下で先生が俯せになって倒れている。通りがかりの人が先生に何か声をかけているのが見えた。
「……陸也さん?……! 陸也さん!」
落ちたんだ!
やっとそう理解した俺は、慌てて下まで駆けおりる。
「陸也さん! 大丈夫? ねぇ!……なんで!」
先生の横に座り込み、パニックになる俺の手に先生の手が触れる。かろうじて聞き取れる小さな声で「よかった…無事で」 と呟き、目を瞑ってしまった。
は? 無事ってなんだよ!
「陸也さん! 平気? 大丈夫?」
目を瞑って動かなくなってしまった先生の頭からは血が出ている。俺は頭の先からサーっと血の気が引いていくのがわかった。
怖くて怖くて、発狂したくなるのをグッと堪え震える手で携帯を取り出す。駆けつけてくれた通りがかりの人が、もたもたと携帯をタップ出来ずにいる俺の代わりに救急車を呼んでくれた。
「この人……さっき上から下りてきた人に突き飛ばされたように見えたけど……」
おどおどしながらそう言ってその人は俺の顔を見る。
「嘘……」
俺らと階段ですれ違った人……その人が俺を背後から突き落とそうとしたように見えたって言われた。でも落ちてきた陸也さんに気を取られて逃げられてしまったって。
「………… 」
「救急車はすぐに来てくれると思うから……あの、大丈夫ですか?……凄い震えてる」
もしかして俺を庇って落ちたのか?
嘘だろ……?
気がついたら救急車が到着していて、さっきの人が誘導してくれていた。救急隊員に色々聞かれながら、俺は先生に付き添い救急車に乗る。先生は相変わらず目を閉じたまま。乗り込んだ俺が代わりに質問に答えるんだけど、先生には身内がいない。色々と聞かれるものの、俺は先生の事が心配でまともに会話ができなかった。
病院に到着し、運ばれていく先生をぼんやり見送る。段々と状況を飲み込んでいった俺は慌てて真雪さんに電話を入れ、そうして車を飛ばしてすぐに駆けつけてくれた真雪さんが色々と病院の手続きなんかをやってくれた。
先生は頭を打ったためか、一度は目を覚ましたもののまたすぐに意識がなくなり、入院することになったと真雪さんに教えてもらった。
診察、検査の結果は特に異常はない。
それでも眠ったままの先生の険しい顔を見ているのが辛くて、俺は泣きそうになってしまった。
次の日の朝早く、真雪さんは学校に出向き先生の事を校長先生に話をしてくれた。
俺が日頃から仕事と学校のことを高坂先生に相談をしていて、ここ数日はストーカーの相談もしていたこともあって気にかけてくれていた。昨晩の事はたまたま偶然居合わせて、ストーカーに襲われそうになった俺の代わりに怪我を負った……そういう風に説明をしてくれたらしい。
俺も後から校長室に呼び出され説明をさせられる。
校長先生は、そもそも高坂先生には仕事と学校を両立する俺の事をフォローしてやってくれと頼んでたと言い、それでも夜遅くに繁華街などを歩き回るのは高校生としてよろしくないと俺はガツンと怒られた。
校長先生は俺に対して今日から二日間の謹慎を言い、俺はそのまま家に帰るよう言われた。
「心配なのはわかるが、君も酷い顔色だから……ちゃんと休みなさいね」
校長室を出るときにそう優しく声をかけられ、俺は堪らず涙が溢れた。
俺のせいで……
ごめん、先生。
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