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違和感
俺はマンションには戻らず、悠さんに電話を入れた。
悠さんに先生の事を聞くと、もう一度精密検査をするとのことですぐに退院にはならないと教えてくれた。
俺は一旦先生の部屋に行き、身の回りの荷物を用意してから病院へと向かった。
昨晩は真雪さんと、悠さんにも連絡を入れていた。
病院のこと、学校のことは俺の親代わりの真雪さんがやってくれて、悠さんは昼間先生の様子を見てくれている。
病室に着くと、先生はまだベッドに横になったままだった。傍らに悠さんが椅子に座って本を読んでいる。
「悠さん……」
声をかけると悠さんは笑顔で顔を上げた。
「さっき一度起きたんだよ。あんま自分の状況がわかってなかったみたいだけどね。医者も多少の混乱はあるものの検査も異常はないから心配ないって言ってたし。意識がしっかりすればすぐに退院だから……ほら、そんな顔すんなって、大丈夫だよ」
不安な気持ちで立ち尽くす俺に悠さんはそう説明してくれ、こっちにおいで……と手招きをする。悠さんの隣に椅子を置き、ベッドに横になっている先生の手をそっと握った。
「俺があの変な手紙の事……ちゃんと言ってれば、もっと注意していれば……先生もこんな事にならなかったよね。ごめんなさい……ごめん」
「志音のせいじゃねえよ? 陸也がお前を助けた、当たり前だろ? 陸也にとって志音は大切な人なんだから。謝る事ない。もう自分を責めるな」
あの階段ですれ違った人物。
昨晩、突き落とされたかもしれないと真雪さんに話をしたら、すぐに警察と公園の監理室に話をして防犯カメラで調べてくれた。
思った通り、俺が背後から突き落とされそうになったのを先生が庇ってくれていたらしい。
犯人はそのまま逃走……
でもカメラの映像から、早朝すぐに捕まりあの手紙を送ってきた人物と同一犯だったことが判明した。
犯人は俺ではなくて仁奈のファン。
俺と仁奈が一緒の仕事が続いたのが気に入らないと言い、プライベートでも仁奈と親しくしてる事がわかって尚更嫌悪が増したと供述していると聞かされた。
怒りを通り越して、俺はそいつにはもう何も感じなかった。
寧ろ自分に対して怒りが湧きあがる。
俺が気をつけてさえいれば……
真雪さんにもちゃんと言われていたのに。
でも今はただただ、先生が目を覚ましていつもの笑顔を見せてくれればそれでいい……そう願うだけだ。
「……一度起きたって言ったけど、なんでこんなずっと寝てんの? 本当に大丈夫なの?」
先生の手を優しく摩りながら俺は悠さんに聞く。
「うん、頭打つとこういうのよくあるらしいよ……あ、ほら……起きそうじゃない?」
悠さんに言われ、先生の顔を見ると少し表情が険しくなってる。そして瞼がピクッと動き、ゆっくりと目を開いた。
「陸也さん!」
ぼんやりと天井をぐるっと見回して、俺と悠さんの顔を見る。
……よかった!
「陸也……?」
悠さんが声をかけると、険しかった表情が和らいだ。
「……俺、まだ病院?……てか頭痛え」
ゆっくりと体を起こし、額に手をやるとチラッと俺の顔を見て微笑んでくれた。
「………… 」
「医者が目が覚めたら呼べって」
悠さんはそう言いながらナースコールを押す。
「………… 」
何か変。先生の様子、雰囲気に違和感を感じて不安になった。
「……陸也さん、ごめんね、俺のせいで。本当ごめん」
少し違和感を感じながらも、俺は先生にそう言って手を握る。
「あ……悪い。ケガした時の事よくわかってねえんだ俺。そんな気にしないでいいよ……」
手を握る俺の手をそっと掴んで離されてしまう。
「君、カッコよすぎだろ。いきなり手なんか握られたらドキドキしちゃうじゃん……ところでさぁ、悠さん俺いつ退院なの? もう全然元気なんだけど」
……え?
悠さんも怪訝な顔で先生を見ている。
「陸也? なんだよ`悠さん って……」
「へ? 悠さんは悠さんだろ?……なんだよそんな怖い顔しないでよ。頭痛いんだからさ、もうちょっと労わって」
「………… 」
嫌な予感が、黒い渦を巻いてお腹の底から湧き上がってくる感じ……
心臓の鼓動が早すぎて気持ちが悪くなってきた。
いつもは悠さんのこと「悠」って呼び捨てなのに。
「陸也、お前そこにいる志音の事……わかるか?」
悠さんがそう聞いたその時、医者が病室へ入ってきた。
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