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一方通行
次の日も俺は一人で先生の部屋に向かった。
合鍵を持っていたけど使わずにインターホンを鳴らす。迎えてくれた先生は、連続して訪ねてくる俺の事を少し訝しげに見て、それでも部屋に入れてくれた。
「なんだろうね、志音は俺の事気にしすぎだろ。お前のせいじゃないんだからさ、そんなに気にすんなよ」
「先生、今日は具合どう?」
「ん……実は酷い頭痛でさ。眩暈もするからしんどいんだ」
頭に手をやり険しい顔をする先生。
表情を見てすぐにわかるくらい辛そうな先生。せめて身体的な苦痛だけでも変わってやりたいと切に願う。今すぐに抱きしめて、先生の負担が少しでも和らげば……なんて考えてしまい俺まで辛くなった。
「先生、ベッドで横になってな。寝てていいから。家の事は俺がやるし……朝飯は食べられそう? 何か作る?」
俺は先生の背中を押しながら寝室まで行きベッドに寝かせた。
「悪いな、志音。飯はいらない。しばらく横になるわ……」
そう言ってすぐに先生は目を瞑り、そのまま眠ってしまった。
「………… 」
病院で目を覚ましてからは元気な風に見えるけど、ずっと眉間にシワ寄せて体調が悪そうだった。病院でもこの部屋でも、寝ているかぼんやりと微睡んでるかで、実際に起きている時間は実は凄く少なかった。
俺に何ができる?
俺は何をしてあげられる?
そんな事を考えながら、俺は部屋の掃除を黙々とやった。
真雪さんは俺に気を使って仕事を一週間分キャンセルしてくれた。
沢山の人に迷惑をかけている。
ごめんなさい……
でも今は俺、先生の事を最優先したいんだ。
記憶もしっかり戻って回復した時に、すぐに俺が抱きしめてあげたいから。元に戻った時、一番最初に俺を見て欲しいから……
部屋の片付けを終わらせ、寝室に入る。
ベッドから少し離れた床に座り、顔をこちらに向けて眠っている先生の寝顔を見つめた。
ここ数日、俺は後悔しかしていない。
あの時ああしていれば。
ちゃんと話をしていれば。
寄り道なんかしないで真っ直ぐ家に帰っていれば……
俺のせいで先生だけじゃなく、沢山の人に迷惑をかけた。
……辛い。
ずっと堪えていたのに、ここにきて涙が溢れる。
クソッ……
全部自分が悪いのに、なにメソメソ泣いてんだよ俺は。
手の甲で涙を拭っていると、ベッドに寝ていた先生と目が合った。
最悪。
泣いてるのを見られてしまった……
部屋から出ようと立ち上がると「志音……」と優しい声で名前を呼ばれる。振り返るとベッドに座る先生が、いつもの優しい笑顔を浮かべて両手を広げて俺を見つめていた。
俺は吸い込まれるようにその腕に抱かれにいく。
ギュッと抱きしめてくれ、頭を優しく撫でられた。
「……陸也さん、ごめん」
「泣くなよ……志音は悪くないから。ありがとうな……」
先生に頬を撫でられ、涙を拭うようにそこにキスをされる。
俺は嬉しくて先生の胸に顔を埋めた。
ゆっくりと押し倒され、首筋にキスをされる。
先生の匂い……
ぬくもり……
優しく体中に降り注ぐキスの嵐。
もう絶対に俺のそばから離れないで……そう思って俺は先生に抱かれた。
「陸也さん……おかえり。愛してる」
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