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ほっとけないよ……
「……もうダメ。辛くてさ。これでも回復するのを寄り添って待とうって決めてた。でも辛いんだ……たったのニ日間、一緒にいただけなのに……もう辛くて辛くて死にたくなる。だって先生、俺のこと見てくれないんだよ。俺じゃなく悠さんの事を愛おしそうに見つめてるの、俺には耐えられないよ」
え? どういう事?
……悠さんて?
先生は悠さんとも何かあったの?
でも泣きながら話す志音に、僕はとてもじゃないけど聞けなかった。
「でもさ……先生は元に戻ったんでしょ? 志音のことも思い出したんでしょ? せっかく元に戻ったのになんで側にいないの? 先生のところに行きなよ」
「残酷な事言うなよ……竜太君だったら耐えられる? 竜太君の事わからない周さんの側で寄り添っていたらさ、周さんが自分じゃない他の人を見ているのがわかって……どう思う? どう感じる? やっと元に戻ったと思ったらさ、セフレ扱いされたんだよ? 竜太君なら堪えられる?……それでも笑って、側にいられる?」
矢継ぎ早に志音に言われ、体が強ばる。
もし僕が志音の立場だったら……周さんが僕の事を忘れて他の人を好きになる?
想像しただけで涙が出てきた。
「俺はね、逃げたんだよ……俺との事を忘れちゃった先生の側で黙って支えてあげられるほど、俺は広い心の持ち主じゃなかったってこと。どんな事があっても寄り添って生きてくって心に誓ったのにさ、実際はこんな脆いんだよ……自分で自分が嫌になる」
先生は悪くない。
俺が弱かったんだ……
そう呟いて、静かに泣く志音。
こんなに志音が傷付いてるのに。記憶が戻った高坂先生はこの事を知ってるの?
「志音、先生は記憶が戻ったんだよね? あの……その、先生は志音の事忘れていたって事はわかってるのかな? だって病院からずっと付き添ってたんでしょ? その間の記憶は? 気がついた時にやっぱり側にいてあげたほうがいいんじゃないの?」
辛いから逃げたって言ったって。
先生はちゃんとわかってくれるはずだ。
「先生は俺を助けた後のことは覚えてないよ。志音は怪我なかったか? って言ってるって。退院した後のこと、覚えてなくて……本当よかった」
泣きながら笑ってる……
志音の言ってること、わかる気もするけどやっぱり何か違う。
「先生覚えてないなら尚更、志音は側にいてあげなきゃ。先生と話しなよ……志音が言えないなら僕が説明してあげようか?」
先生は志音がこんなに悲しんでること、ちゃんと知らなきゃダメだと思う。
「絶対駄目! 言う必要ない! そんな事、先生が知っちゃったらどう思う? 苦しめちゃうだけだよ……こんな事、先生は知る必要ないんだ! 何?[先生は記憶のない間、志音にこんな酷いことをしました]って言うつもり? 先生のことを責めるの? そんな事したら俺は絶対に許さないから!」
志音は自分はこんなにも傷付いてるのに、先生の事はそうまでして守りたいんだね。
……それって先生の事「愛してる」って事じゃないの?
自分が傷付いても先生の事を守れる強さがあれば別れる必要なんてないのに……
「志音ばっかり辛い目にあってるのおかしいでしょ! 先生から逃げたのはしょうがないじゃん! だって側にいられないほど辛かったんでしょ? 先生から離れたら楽になるの? 先生も志音もその選択で幸せになれるの?……違うでしょ? 今にも死にそうな顔して泣いてるくせにさ、なんでそんな事もわからないんだよ。バカなの?」
それに先生だって納得しないよ。
志音が先生との事を終わったって言ってるなんて、夢にも思っていないと思うから……
僕に弱音吐けるんなら、高坂先生にだって吐けるはず。
「うるさいよ! ほっといてくれる? もう終わったんだから……! 竜太君には関係ないだろ!」
志音が感情剥き出しにして僕に向かって怒鳴る。
「………… 」
放っておけるわけないじゃん。
「……友達だから、ほっとけないよ」
お節介かもしれないけど……
何か力になりたいんだ。
大粒の涙を溢す志音と目が合い、僕の目からも涙が溢れる。
「ごめん……ありがとう竜太君。でも本当、大丈夫。先生と話す時は俺がちゃんと話すから。だから……お願い。竜太君は何もしないで…… 放っておいて……」
俯いて涙を溢す志音を僕はそっと抱きしめた。
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