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似た者姉弟
志音のマンションを出て家に帰る──
歩きながらやっぱり涙が出てきてしまった。
好きな人に心配をかけないように強がって見せたり無理したり、そういうのは僕だってよくわかる。
でも何で?
関係ないって離れちゃうの?
もう自分には関係ないって突き放せるものなの?
わからないよ……
あんなに泣いてるくせにさ。
辛いから泣くんだよね? 好きだから泣くんだよね?
とぼとぼと俯いて歩いていると、誰かに背中をばちんと叩かれ僕は驚いて前につんのめってしまった。
「こんなところに竜太君!……てあれ?……え? ちょっと! どうしたの?」
振り返ると心配そうな顔をした修斗さんが立っていた。
「ごめんね、俺強く叩きすぎた?」
「あ……大丈夫です違います。何でもないです……」
僕は慌てて涙を袖で拭った。
「いや……大丈夫だって言われてもなぁ。泣いてる竜太君見ちゃったら心配しちゃうでしょ。どうしたの? 周と喧嘩でもした?」
僕は首を振る……
「………… 」
「自分の家と全然違う場所で一人で泣いて歩いてんのはおかしいでしょ……俺には言えない事なの?」
修斗さんは僕の背後をチラッと見て、何かを察したように軽く頷いた。
「そっか……志音とセンセーのこと?」
「………… 」
この人は何でこんなに鋭いんだろう。
動揺したのが伝わってしまったのか、修斗さんは笑って言葉を続けた。
「だってさ、センセー休んでるし志音も同じタイミングでチラッと学校に姿見せてからは来てないでしょ? それに竜太君、志音のマンションの方から歩いてきたから……そりゃ気になるし、心配するでしょ? 友達なんだからさ」
そう言って優しく頭を撫でてくれる。
それでも志音の事を僕がペラペラと喋るのはどうかと思うから何も言えなかった。
「そうだ、竜太君うち寄ってってよ。俺一人でつまんないんだよね。gladのプリンもあるし、よしっ! 決まり! 行こ行こ!」
gladのプリン……一日個数限定で、毎日行列の出来るカフェのプリン。この辺では凄く有名なプリンだ。
どうしていいかわからないでいたら、半ば強引に修斗さんの家へ連れて行かれてしまった。
……プリンにもちょっと釣られてしまった。
「……お邪魔します」
修斗さんの家は駅に程近いマンション。
僕、修斗さんの家に来るのは初めてだ。
玄関にハイヒールがあるのが目にとまる。
「あれ?……姉貴いんの?」
修斗さんが部屋の向こうへ声をかけると、派手な雰囲気の女の人が顔を出した。
近くで見ると凄く美人……って、修斗さんそっくり!
僕は去年のクリスマスライブの時の修斗さんを思い浮かべた。
壮絶美人な女装の修斗さん。康介なんか耳まで真っ赤になっちゃって、まるでゆでダコみたいになってたっけ……
「ん、これから出るし……あれ? 康介君じゃないんだ。どうも〜、初めまして。修斗の姉の有紗 で〜す。あら、あんたの友達みんなイケメンだね。可愛い」
クスッと笑って僕の頬に指を当てる。
……香水臭い。
「おい、竜太君に触んなよ。もう、早く行けって。遅刻すんぞ」
「はいは〜い。それじゃ行ってきます」
有紗さんは修斗さんと僕に向かってヒラヒラと手を振り、玄関から出て行った。
「竜太君、ごめんな。あいつチャラチャラしてて…… 」
いや、修斗さんも十分にチャラチャラしてるから大丈夫。そう僕は心の中で突っ込んだ。
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