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素直に

去年周さんが修学旅行に行っていた期間は、僕は康介と一緒に志音の家に泊まった。所謂「男子会」ってやつだ。志音が康介に高坂先生の事を話したり、お互いの恋愛の事をお喋りしたり、楽しかった事を思い出す。 周さんは僕がいない間はどうするのかな? いつもと変わらずバイトかな? きっと修斗さんも康介がいなくて寂しいって思うよね。 あ…… 「修斗さんって……康介のこと、避けてなんていないですよね?」 ふと康介のことを思い出し、周さんに唐突に聞いてしまった。 「は? なんだそれ? 俺、最近スタジオの時くらいしか修斗とは会わねえから、わかんね……あ、でもまた色んな奴らと遊んでんなあいつ……」 「………… 」 康介のこと放っておいて、他の人と遊んでるの? 連絡取れないほどに? 僕が疑問に思っていると、周さんが信じられない事を口にした。 「……もう飽きたんじゃね?」 は? 言っていいことと悪いことがある! 「ちょっと! そんなことないでしょ! なんでそんな風に言うんですか! 周さん、どんだけ康介のこと嫌いなんですか! 康介のこと飽きたなんて……酷いっ!」 ちょっと頭にきて怒鳴ってしまった。 「いや、そうじゃねえって。修斗が……じゃなくて康介の方が修斗の事飽きたんじゃねえの? って。あいつ康介がいつまでも自分を見ててくれるなんて思ってねえから。ほら卒業も近いしさ、フラれるくらいなら自分から離れるタイプだし……何かに勘付いたから康介のこと避けてんじゃねえのかな?」 「え? 康介が? 修斗さんに飽きた? は?」 周さんの言っている意味がわからなかった。 「なんでそんなふうに思うんですか? おかしいでしょ……康介は修斗さんと会えなくて寂しいって言ってるのに……」 志音といい、何で自分の気持ちと反対のことをするんだろう…… ぐちゃぐちゃになってしまったプリンを口に運びながら僕は思った。 「……竜太?」 周さんに呼ばれ顔を上げる。 「俺は竜太が側にいてくれなきゃ嫌だから……俺が卒業しても今と同じでいてくれよ」 真剣な面持ちでそんな風に言うから嬉しくて、僕は椅子に座る周さんの横に行き抱きしめた。 「……ずっと一緒です」 自然に顔を寄せ唇を重ねる。 「竜太、甘い。プリンの味する……」 僕らは顔を見合わせクスッと笑った。 周さんはわかりやすいし、ちゃんと思ったことを口に出して言ってくれる。僕がどうしようもなくやきもちを妬いたり素直じゃないところもあるけど、でもやっぱり愛されてるのもわかるし何より僕は周さん以外考えられない…… 「好きなのに……なんで離れようなんて思うんだろう。僕にはわからないや」 ぽかんとして周さんが僕の顔を見る。 「そうだな。みんな竜太みたいに素直ならいいのにな」 そう言って周さんは笑ったけど、僕はそんなに素直じゃないよ── 食事を終えて、僕は周さんに送ってもらって家に帰る。帰りの途中で偶然にバイト終わりの康介と会った。 「おう。康介、なんだよ竜太とのスイートな時間を邪魔すんなよ」 冗談半分、でも少し本気っぽくそう言って、周さんが康介を睨む。 「何がスイートな時間だよ。俺も竜んちと同じ方向なの! 周さん、もう大丈夫ですよ? 俺が竜のこと送りますんで。心配しないで帰ってください」 康介もいつもの調子で周さんにふざけて応戦していた。 「なんだよ、自分がフラれそうだからって竜太にちょっかい出したら承知しねえぞ」 「え? ちょっと! 周さん! 何言ってるんですか?」 康介から笑顔が消える。 途端に不安そうな顔をして周さんに食いついた。 「なんすかそれ。 俺……もしかしてフラれそうなの? 修斗さん……だから俺と連絡とってくんねえの?……俺、俺…… 」 「康介、そんなことないよ。忙しかっただけだよ。周さん、康介に意地悪な事言い過ぎ! 康介、気にしちゃダメだよ」 僕は周さんを睨みつけ、康介の肩を抱く。 「忙しいとかじゃねえよ? きっと。修斗は寂しがりなんだよ。ちゃんと捕まえててやれよ。不安がらせてんじゃねえの? お前がしっかりしろよ」 「周さんうるせえよ! そんなのわかってます! 竜、俺先帰るわ……帰って、帰って修斗さんに電話する……」 康介は周さんを睨んでから、駆け足で行ってしまった。 「何であんな風に言うんですか! 康介……可哀想」 周さんは康介に対していつもキツい言い方をする。 僕と康介が幼馴染だってことで焼きもちを妬いてるのもわかるけど…… 「いいんだよ。何にも気づかずにぼんやりしてっと本当に修斗は康介から離れちまうぞ? そんなの康介だって嫌だろ? ああいうバカは言ってやんなきゃわかんねえんだよ」 「周さん……」 それならもっと優しくわかりやすく言ってあげればいいのに…… 明日学校に行ったら、周さんのかわりに康介に謝っておこう。

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