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出発

今日から僕らは修学旅行だ── いつもより少し早く起き、学校に向かう。 家を出てすぐ、僕は康介と合流した。 「おはよ」 「……おはよう」 康介は心なしか元気がない。きっとそれはこないだの周さんの言葉のせい。 修斗さんとは話、できたのかな? ちゃんと会えたのかな? 気になってしょうがないけど「余計なお世話……」という修斗さんの言葉が頭をよぎり、僕は何も言えないでいた。 でも何かあれば康介なら僕に話してくれるよね? 「康介の班は自由行動どこ見学するの?」 学校に着くまでの間、康介とお喋りをする。 今年は別々のクラスになってしまったから、一緒に行動できないのがちょっと残念。康介も同じクラスで同じ部屋なら絶対楽しいのにな。 「ん? 俺らは水族館と、どこだっけ……パワースポットんとこ行って、ファーストフードでお茶するんだとよ」 どうでもいい感じで康介が答える。水族館なら僕らも一緒だ。 「二日目の自由行動、水族館は僕も行くから一緒に見られるといいね」 「そうだな」と言って笑う康介の笑顔に少しだけホッとした。 学校に到着すると、既に生徒達が集まっていて集合がかかる。クラスごとにバスに乗り、空港に向かう。 クラスの違う康介と別れ、自分の乗るバスを探していると真司君が両手を振ってこっちを見ていた。 「おーい! 竜太おはよ!」 馬鹿みたいに大きな声を出して、楽しそうにぶんぶんと手を振る真司君の隣には、つまらなさそうな志音が立っている。 「真司君、志音、おはよう。今日からよろしくね」 「俺の隣は竜太だ!」って言って聞かない真司君に手を引かれ、僕はバスに乗り込んだ。 バスの座席順は前もって決まっていて、班も部屋割りも一緒の僕らは一番後ろの座席に座る。 「あ……ごめん、俺酔うかもしれないから窓際いい?」 突然志音が立ち上がり、慌てて僕の前を横切り窓際へ座った。 身を屈めて、まるで隠れるかのように小さくなる志音を見て変だな……って思っていたら、ちょうど同じタイミングで高坂先生もバスに乗り込んできた。 「あ……」 一番前の座席に座ろうとした高坂先生と目が合い「おはようございます……」となんとなく挨拶をする。 志音を見ると相変わらず背中を丸めて、隠れるようにして窓の外をじっと見ていた。 「あれ? 高坂先生も修学旅行に行くの〜?」 先生に気がついた真司君が前に向かって大きな声で話しかける。 「保健の先生だからな。君たち面倒くさいから具合悪くならないでよ。僕は今年も沖縄旅行楽しみにしてるんだから」 笑って先生がそう答え、そしてバスは静かに出発した。 「今年もってさ、高坂先生毎年修学旅行で沖縄行ってんのかな?」 真司君が僕に聞く。 「たまたま去年と同じ沖縄になったけど、基本的に毎年修学旅行は違う場所に行くみたいだよ」 そう教えてあげたら、なぜか真司君は羨ましがっていた。 「いいなぁ、毎年旅行……」 「いや、引率でついていかなきゃいけないだけで流石に旅行気分にはなれないでしょ?」 僕らの声が聞こえたのか、先生が振り返る。 「そうだよ。恋人と二人で旅行ならまだしも。なんで君たちの面倒を僕が見なきゃいけないの? ほんと……」 先生はふざけたようにそんなことを言うもんだから、周りのみんなはヒューヒューと囃し立てた。 他愛ない話をしながら志音の方を気にして見るけど、相変わらず窓の外に顔を向けていてその表情はわからなかった。 「………… 」 あれだけ騒がしくベラベラとお喋りをしていた真司君が、急に静かになったなって思って見てみたら既にウトウトしていてビックリする。 「信じらんない、なにこの人。子どもみたい」 思わず呟くと、そっぽを向いていた志音もプッと吹き出した。 朝からつまらなさそうにしていた志音。 ろくにお喋りもしていなかったから、少しだけ笑ってくれたのが僕は嬉しかった。 でも空港に到着するまでの間、真司君の頭が僕の肩にずっと乗っていて、それが結構重たくて、凄く凄く嫌だった。

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