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愛しい人を思う顔

僕と真司君が大騒ぎしていてもまわりのみんなは知らんぷり……ていうか、僕らを見てクスクス笑っている。 もう! 「真司君! 早く離れてよ! お風呂入れないじゃん!」 段々顔を赤くしていく真司君に困惑しながら、ビクともしないその体を必死に僕は押し退けた。 「おい! 何やってるんだ?! 」 入り口の方から高坂先生の声が響き、驚いて顔を向けると怖い顔をした先生がこっちを見ていた。 「そこっ! 今すぐ離れなさい!……ケンカか? 怪我は?」 ずんずんと近づいてきて僕の腕を取り起き上がらせてくれる。 「あ……いや、ケンカじゃないっす。ちょっとふざけてて……」 気まずそうに真司君が僕から少し離れた。 「真司が渡瀬君にセクハラしてました〜。エロいことしようとしてました〜!」 クスクス笑いながら見ていた生徒が先生に向かってそう言うと、高坂先生は真司君の頭にゲンコツを落とした。 「まったく、お前は小学生か? 自分がやられて嫌な事をするんじゃないよ」 呆れ顔で真司君にそう言って、高坂先生は浴場の方もぐるっと見渡す。 「………… 」 どうしたんだろう? 高坂先生の表情が少し曇った。 「竜太君……志音はどうした? 同じ班だよな?」 心配そうな顔。 普段の学校での先生の顔と全然違う。 先生は……愛しい人の事を心配する顔になっていた。 志音には言うなと言われたけど、しょうがないよね。高坂先生は保健医だもん。 「具合悪いみたいでベッドに横になるって言って出てきませんでした。高坂先生にお知らせしようと思ったんだけど……大した事ないって言うから連絡しませんでした。すみません」 僕は正直に話した。 「何で俺に早く言わない! 志音は部屋で寝てるんだな?」 先生は怖い顔をしてそう言い捨てると、さっさと大浴場から出て行ってしまった。 「………… 」 驚いた。 先生、学校では「僕」と自分の事を言うのに「俺」って言っちゃってるし……余程焦っていたのかな? 「なんかさ、今……高坂先生、雰囲気いつもと違くなかった?」 ぽかんとした真司君が僕に聞く。 「そう? 気のせいじゃない?……僕らも早くお風呂入ろう。時間なくなっちゃうよ」 志音の事は先生に任せればいい。 ちょっと安心して、僕は湯船に浸かった。

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