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会いたい……
志音と会えないまま、修学旅行の日になった。
俺は毎年引率で行く事は決まっていたので、志音のクラスのバスに乗れるように無理やり調整をした。公私混同甚だしい。
でも顔が見たい。
話がしたい……
竜太君と一緒にいる志音を見つけたけど声もかけられず、バスに乗り込んでからは隠れられてしまいどうしようもなかった。
目の前にいるのに……
俺の手の届く場所にいるのに。
このまま強引に連れ去ってしまいたい衝動に駆られる。
俺が悪いのは百も承知だ。だけど、ここまで避けられてる決定的な理由はきっと他にもあるんだと思う。
ちゃんと話をして許してもらいたい。
このまま無視されたまま、終わりになんかさせてたまるか。
宿泊するホテルに到着してからも、俺は見回りと称して志音の部屋近辺をうろついたり、志音の班の行動時間を調べたりした。
職権乱用……
俺は修学旅行の引率なんて事はどうでもよくて、どうやったら志音と話ができるのかだけを考えていた。修学旅行がなければきっと俺は志音の教室まで出向いて無理やりにでも保健室まで引っ張り込んでいただろう。
もうそれくらい俺の頭の中は志音の事でいっぱいだった。
風呂の時間、大浴場の監視を任された俺は時間を確認する。この時間帯は志音のグループも入っているはず……
このままここで待っていれば志音は出てくるはずだから、そこで捕まえて俺の部屋に連れて行けばいい。
理由なんて何とでもなる。
そんな事を考えていたら、中が騒がしくなった。志音の事で頭がいっぱいなのに、面倒ごとは御免だ。ふざけんな。
イラつきながら中を覗くと竜太君とそのクラスメイトがじゃれあっていただけだった。
どうして男子校っていうところは、こうもくだらない事で大騒ぎをするんだ? エロいことに夢中になる年頃なのはわかるけど、興味本位で同性にちょっかい出すようなのには本当にうんざりする。異性じゃなく同性を好きになるやつだっているんだから……そいつらからしてみたらいい迷惑だ。
竜太君なんて橘とそういう関係だってことはあの文化祭の時からかなり周知されてるはずなのに、それでもちょっかいを出す神経が俺にはわからない。
かなりイラつきながらその生徒を軽く諌め、志音の姿を目で探す。
隅々まで探しても見つからないので堪らず竜太君に聞いたら、部屋で寝てると教えてくれた。
体調不良?
大丈夫か?
志音の体調も心配だったけど、それ以上に俺は別の思いが膨れ上がっていた。
やっと志音と話ができる。
やっと志音を捕まえられる!
……どうやって閉じ込める?
そんな思いを胸に、志音の元へと俺は走った。
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