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嫌だ……
何も言えずにいる俺にしびれを切らしたのか、少しイラついた様子で先生が俺に覆い被さってくる。
「何とか言ってくれよ……俺は志音を失いたくない。なぁ……ごめん。ごめんって。俺が好きなのは志音なんだ……悠じゃない。そんなのわかるだろ?」
「………… 」
ごめんと謝っている先生だけど、俺の肩にある手にどんどん力が入っていくのがなんだか怖い。
「……悠さんから聞いたの?」
悠さんの事を言われそう聞くと、先生はふっと笑顔になった。
「やっと俺の顔、見てくれた」
俺に覆い被さっていた先生にギュッと抱きつかれ、頰ずりをされる。
「………… 」
「志音の事を忘れてしまってたのは悠から聞いた。悠に対して好意があるような態度を志音の目の前でとってたって聞かされた……聞いて愕然としたよ。嫌だったよな……ごめんな。本当にごめん。退院してから志音が俺の部屋を掃除してくれたり、寝てるところに水を持ってきてくれたり、ふわっとだけどその時の事も今は思い出せてるから」
両頬を手で挟まれ、今にもキスをしそうな距離で先生は必死に俺に説明をする。
そっか……
俺が看病してた時の事、何となくは思い出せてるのか。
……それなら? 俺を抱いたあの夜の事はどうなんだろう。
「ちゃんと志音の事わかる。俺の大切な志音の事、ちゃんと思い出してる。出会ってから今までの事……何一つ忘れてないから。また今までと変わらず俺のそばにいてくれよ」
わかってる。
わかってるけど……でも、自分だけ忘れられていたショックと、思い出してもらえたと誤解して抱かれた事。抱かれた後に俺の知ってる先生じゃなかったんだとわかったあの一言がどうしても頭に蘇ってしまって辛いんだ。天国から一気に地獄へと落とされた、しかも愛する人に落とされたあの絶望感。
先生は悪くないのに……
記憶がちゃんと戻って、俺のことを愛してくれる先生が目の前にいて、俺は喜ばないといけないのに、どうしようもなく辛さだけが膨れ上がっていく。
これは俺の問題なんだ。
好きになればなるほど、辛い思いをするのが怖い……
前はそんな事考えもしなかったのに。
「……ごめん。もう……俺、無理……」
そう言って先生から目を逸らした一瞬、先生の顔が歪んだのがわかった。
「んっ……!」
「何が無理なんだ?……なぁ、無理ってどういう意味?」
俺の頬に優しく触れていたはずの先生の手がスルッと下がり首に触れる。
「……っ 」
じわりと先生の手に力が入り、俺の首を圧迫していく。
……息が苦しい。
「く……苦し……ぃ……あ……ぁ」
先生の手を掴み抵抗すると、ハッと我に返ったような顔をして手を離してくれた。
顔面蒼白……
俺の首を掴んだ手の形で固まり、小さく震える。
「……嫌だ……嫌だ…… 何で無理なんて言うんだ?……何でそこまで俺を拒むんだ……どうしても許してくれないのか?」
ゲホゲホと咳き込み息を整える俺をジッと見つめ、怯えた顔で先生が呟いた。
どうかしてる……
本当に、どうかしてる。
堪えきれずに涙が溢れた。
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