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昨晩の二人/高坂の思い
体調の悪い志音を俺の部屋で預かる。
……て言うのは建て前で、きちんと話をするために部屋へと連れ込んだというのが正しかった。
志音の本音を聞き出して、それでも俺は拒絶され……気が付いたら志音の首を絞めていた。
俺から離れるくらいならこいつを殺して俺も死ぬ……
頭に血が上っていたとはいえ、この思考はヤバイと気付いた。
でも「苦しい……」と俺を見る志音の顔を見て俺は嬉しく思ってしまった。志音のその顔は、恐怖ではなく喜んでいるように見えたから。
俺も志音も重症だな……
きっと志音は俺が命を絶てと言えば、迷いなくそうすると思う。寧ろそう望んでいる俺自身が怖い。
俺の側にいてくれないのなら俺の前から消えてしまえだなんて、乱暴にもほどがある。
仮に志音に命を絶ってくれと言われたら、俺なら一緒に死んでくれと懇願するだろう。愛してるが故の独占欲といえば聞こえがいいが、そんな簡単な事じゃない。
自分が恐ろしい人間だと痛感する。
でもそれ程までに俺には志音が必要なんだ──
あんなにも酷い仕打ちをしてしまった志音に償えるとすれば、この先死ぬまで一緒にいる事……志音は俺が守っていく。
もう二度とあんな目には合わせない。
ずっと抑えていた感情を俺にぶつける志音の頬にそっと触れる。
この手にやっと縋ってくれた。
やっと俺の手に帰ってきてくれたと嬉しくて、心が震えた。
涙が止まらない……
どうしたらいいのかわからなかったと泣いて謝る志音。自分が弱かったからと謝る志音。
違う。全部俺のせいなのに……
さっきからずっと謝りながら泣いている志音をきつく抱きしめる。
絶対に離さない。
もう逃さない……
ずっと一緒にいてくれと俺は志音に伝え、志音もそれに頷いてくれた。
もう俺の事忘れないで。
ずっと一緒にいて……
もう逃げたりなんかしないと泣く志音に俺は優しくキスをした。
ずっと一人で堪えてたからか、今目の前にいる志音は愛に飢えた子どものように俺から離れようとしなかった。
きっとここしばらく碌な食事もしていないだろうと思い、俺は志音の夕飯をもらいに部屋をあけた。部屋に戻ると今にも泣きそうな顔をして俺を迎える志音と目が合う。
そんな縋るような目で俺を見る志音を見て、嬉しくて胸がざわついた。
志音をこんな風にしてしまったのは俺のせい……それなのに喜んでしまっている俺はどうしようもなく欲深い人間なんだと改めて思った。
「食えそう?」
志音の隣に座り、食べられそうか様子を見ながら額に手をあてた。
熱は思ったよりなさそうで安心する。
「ん……いらない。陸也さんがいれば何にもいらない」
志音は俺の手を握り、胸に体を預けてくる。そのままギュッと抱きつかれてしまった。
「陸也さん……陸也さん」
うわ言のように俺の名前を何度も呟き、しがみついてくる志音に嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちで複雑になる。
俺はどれだけ志音の心に傷を負わせてしまったのだろう。
以前のようにちゃんと戻れるのか……
俺は不安な気持ちに襲われた。
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