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昨晩の二人/膨らむ不安に

「志音? 俺はもうどこにも行かないから……とりあえずちょっと離れて、熱、計らせて」 熱を計ると微熱程度で顔色も良くなっている。この熱は沢山泣いて興奮したせいもあると思う。 「はい……熱ないよ。全然大丈夫。お粥、陸也さん食べさせて」 明るくはにかみ、おねだりするように俺を見る志音。さっきは「いらない」なんて言ってたくせに。食べさせてという割に、俺に抱きついたままの志音。言っていることと行動がどうにもマッチしなくて困惑する。食べさせてやるから離れろと言っても、無意識なのか離れたそばからまた抱きついてくる始末…… 「だから……志音? ちょっとでいいから俺から離れろ。どこも行かないから。お粥、食うんだろう?」 俺が言うと途端にシュンと項垂れてしまう。 不安でしょうがないという志音の気持ちが手に取るようにわかり辛くなる。 俺はちゃんと信頼を取り戻す事が出来るのだろうか……不安を取り除いてやることができるのか。 「ん? 志音? ほらお粥……」 一口分のお粥をふーふーと息を吹きかけ少し冷まし、元気のなくなってしまった志音の口元へ運んだ。 一応は飲み込んでくれるけど、心ここに在らず……半分程減った頃にはとうとう志音の口は止まってしまった。 「もうやめとくか? ご馳走様?」 そう聞くと、もういらないと言うので俺は器を片付けようと立ち上がる。途端にドン……と衝撃が走り危うく器を落としそうになった。いきなり志音が俺にしがみついたから驚いて思わず声を大きく注意してしまったけど、言ってすぐに後悔した。 別に怒ったわけじゃない…… 今にも泣きそうな顔で俺に謝る志音が見ていて痛々しくて、どうしたらいいのかわからなかった。言葉には出さないけど「行かないで、側にいて」と言っているのが俺にはわかった。 大丈夫だよ…… 俺はもうどこにも行かない。 急いで器を片付け、志音の隣に腰掛ける。 「俺はここにいるから。心配するな。あんな事、もう二度とあってたまるかよ……不安なんだろ? 遠慮しなくていいから……思ってる事、我慢しなくていいから全部俺にぶつけろ。な? 泣いたっていいからさ」 不安そうな志音を抱きしめた。 小さく震えてるのがわかる…… 俺のことを気遣って我慢なんかしなくていい。不安なこと、辛いこと、全部俺にぶつけて吐き出してほしい。 「俺、ほっとしたら……今度はすごく不安になった。やだ……離れたくない。怖いよ……俺の事ちゃんと好き? もう忘れない?」 俺の胸に顔を押し付け静かに泣き始めた志音だけど、そのうち嗚咽が漏れ始める。 ……ごめんな。本当にごめん。 泣きじゃくる志音を胸に抱きながらどうしてやることもできず、俺は優しく背中を摩る。 気付けば志音は俺の胸の中で眠ってしまっていた。

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