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味方だから
朝食を終えた僕らは自分たちの部屋へ一旦戻る。別のフロアだけど、途中まで康介も一緒だった。
康介も真司君も、やっぱり志音の変わり様に少し戸惑っていた。会った時のあの落ち込みようから一変して、今は物凄く明るく振舞ってるのがよくわかったから……
「じゃ、また後でね」
クラスが違う康介だけど、班ごとの自由行動では行き先が一緒なので後で落ち合う約束をして僕らは別れた。
「確か最初は水族館に行くんだよね?……水族館って言ったらさ、デートスポットだろ? 男ばっかでワイワイ行くもんじゃないよね」
部屋に戻った僕たちは、自由行動に向けてお喋りをしながら支度を進める。ベッドに腰掛け、自分のカバンを覗き込みながら志音は楽しそうに話していた。
「デートしたいなぁ……」
意味深な志音の言葉に真司君がすぐに反応する。
「志音は目立つからデートなんか無理なんじゃね? てか彼女いんの?……仁奈と付き合ってるって噂は本当の所どうなの? 仁奈が彼女じゃ余計にデートなんか無理だろ」
矢継ぎ早に志音に質問する真司君に僕は少しハラハラしてしまう。
「ちょっと、真司君ってば……」
するときょとんとした志音が声を出して笑った。
「君いつの話してんの? 週刊誌に出てたまんま、報道のまんまだよ。仁奈とは仲のいい友達! 友達として親密にしてるところを撮られただけだって。それに俺は仁奈は無理だから」
「は? 仁奈は無理ってお前何様だよ! あんな可愛い仁奈ちゃん捕まえて無理って! 失礼だろ? 謝れ!」
……真司君って仁奈ファンなのかな?
「ん?」
志音と真司君が仁奈の話で盛り上がってる中、僕の携帯がメールの着信を知らせる。そっとカバンの中で内容を確認して、僕は一人廊下に出た。
メッセージを寄越したのは高坂先生だった。
志音にわからない様に部屋から出てきてくれって……
部屋を出て廊下の先を曲がった所に先生が立っていて、申し訳なさそうに僕を手招きする。
「……なんですか?」
「ごめんな、志音の事なんだ」
物凄く小声で僕にそう言う先生。
……だろうね。
先生が個人的に僕を呼び出すなんて、志音の事以外ない。
「空元気にしてますよ。見ていて痛々しいくらいに」
先生と志音の問題だし、僕が知ってる事なんてきっとほんの少しだけ。
でもあんなに傷付いて泣いていた志音を見ていたから、どうしても先生を責めたくなってしまう。嫌味っぽく言ってしまったと少し後悔したけど志音の気持ちを考えたらどうって事ない。
僕は志音の味方だ。
「……きっと今、凄く不安定になってるから。あの……よく見ていてやってほし……」
「そんなの言われなくてもそうしてます!」
思わず声を荒らげてしまった。
僕が先生を責める資格なんてこれっぽっちもないのに……
「あ、ごめんなさい」
驚いた顔をした先生に僕は慌てて謝った。
「いや、いいんだ。竜太くんありがとうな。本当……ありがとう」
これ以上は何も言わず、先生は自室へと戻って行った。
少しだけ小さく見える先生の背中。先生だってきっと酷く傷ついているんだ。それなのに関係のない僕が責めるような事を言ってしまった。
僕は後悔しながらまた部屋に戻った。
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