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水族館へ
「………… 」
「……志音?」
僕らは班別の自由行動で、バスに揺られて水族館へと向かってる。
一番後ろの座席に陣取り、他愛ない話をして盛り上がっていたんだけど、また志音の様子がおかしくなってしまった。真司君は気分が悪いと言う志音のために窓際の席を替わる。
「志音? 辛かったら僕に寄りかかって寝てていいからね?……体調悪いの? 吐きそう?」
窓の外をぼんやりと黙って見つめる志音に聞くと、小さく首を振り僕の肩に頭を預けてくるのでそのまま寝かせてあげた。
心配そうにこちらを見てる真司君や康介に「大丈夫だから」と小声で伝え、僕らは目的地まで静かに過ごした。
水族館に到着してバスから降りる。
志音は顔色はいいものの、静かに僕に寄り添って歩いてる。
「なんかさ、見てあれ……カップルみたいじゃね?」
後ろで真司君が康介に言ってるのが聞こえ振り返ると、ニヤついた二人がこっちを見ていた。
確かに背の高い志音が寄りかかるようにくっ付いて僕の肩に腕を回してる。僕はそんなに背が高くないから、志音に肩を抱かれてるように見えるんだよな。ちょっと恥ずかしくて志音の顔を見上げるけど、志音は志音で何食わぬ顔して笑ってる。
「い〜の。竜太君とくっ付いてると落ち着くんだもん。早く行こうぜ」
機嫌が良さそうなのは安心なんだけど、僕はちょっと複雑だ。
「もう具合大丈夫なの?」
「ん? うん、なんかバス酔っちゃったみたい……でももう平気。竜太君優しいね」
「………… 」
わざとなのか、素でやってるのか、志音は僕にくっつきいちゃいちゃしてくる。肩に回された手が僕の頭の上に乗り、ぽんぽんと撫でられた。
「ちょっと! 歩きにくいから……」
とりあえず真司君と康介に揶揄われながら、僕らは水族館に入った。
康介もだけど、他のクラスの別グループも一緒なので周りは同じ制服の男子ばかり。その中に混じり一般の客もちらほらいるので思ったより混雑していた。
真司君がまとめて僕らと、なぜか康介の班のみんなのチケットを買いに行ってくれて一緒に入場する。
館内に入ると、今度は志音は真司君と腕を組み歩き出した。真司君は照れ臭そうに黙っちゃってるから後ろで康介と揶揄って、お返しとばかりに笑ってやった。
「真司君が大人しいの可笑しいから。なんかカップルみたいだね」
さっき言われたまんまを真司君にぶつけると「カップルじゃねえ!」と言って慌てて否定するから余計に可笑しかった。
僕はそんな志音と真司君の後ろを康介と並んで歩いた。
「竜は周さんと水族館行った事ある?」
突然康介にそう聞かれ、僕は頷く。
周さんが僕の誕生日に連れて行ってくれた水族館。初めて行った水族館の思い出が頭の中で蘇って自然と顔が綻んだ。
「いいなぁ、俺も帰ったら修斗さんとデートしてえな」
声のトーンを落としてそう言った康介が、なぜか少しだけ寂しげに見えた。
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